ワイルドで行こう
.リトルバード・アクセス《10a》
少し季節が早いけれど、今日はお気に入りのあの服を手に取った。
黒いシャツワンピース。
それを着込み、その上にウールのカーディガンを羽織る。今日はこれでOK。
このシャツワンピースは本当に着やすく、小鳥もとても気に入っている。着ていて『自分らしい』と思える、違和感のない一着。
好きな人からプレゼントされたから、それもあるかもしれない。でも、それ以上に、本当に小鳥の気持ちにもフィットしている。それに誰もが『それとっても似合う。小鳥ちゃん、お洒落』と言ってくれる。あの雅彦おじさんでさえ『それどうした。すごいお前らしいじゃないか、似合ってる』と絶賛してくれた。
……つまり。それだけ。大好きな人が、小鳥をよく見て、よく知って、選んでくれたということ。こんなに嬉しいことがあるだろうか。
だから。小鳥は高校卒業後、それまで興味もなかったお洒落をきちんと考えてするようになった。
腰まで長く伸ばしていた長い髪も、今はもう胸元まで。毛先が軽くなっても、今まで通り丁寧に手入れをして、きちんと櫛で綺麗にとく。
眉毛を目印にまっすぐに切りそろえていた前髪も、いまは伸ばして横分けに。
美人と言われている親友やママから教わったお化粧もほんの少し。ちゃんとビューラーでまつげも、ナチュラルにお洒落をして……。
「行ってきます」
白いハンドバッグを肩にかけ、小鳥はリビングで紅茶を飲んでいる母に声をかける。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
いつも優しい微笑みを返してくれる母に、小鳥も笑顔を返す。
季節はお椿さんが過ぎた頃。先日、両親が『挙式記念日』と言って、初めて子供達だけを留守番させる一泊旅行にでかけた。
相変わらずの仲の良さで、旅行から帰ってくると、なんだかいつも以上にくっついているようで、まったく子供の目から見ても呆れかえること多々。特に、英児父が。