ワイルドで行こう



「ハチロクは、聖児が免許を取ってから二人揃って乗せてもらう」

 そして父も、娘が姉として考えたことを理解してくれたのか何も言い返してこなくなる。ただ、呆れた顔もしている。

「でもよ。なんでゼットなんだよ」

 これまた不満そう。ハチロクでなければ、どうしてスカイラインじゃない。親父の車じゃない。母親の車なんだと言いたそうな顔だなあと小鳥は察した。

「だって。スカイライン、なにもかも重いんだもん」

 免許を取って直ぐ。峠の走り方を教えてくれたのは、やはり父だった。娘が翔から譲り受けた青いMR2の助手席に乗り込み、夜の峠道をどう走るか。小鳥の『走り屋師匠』だった。

 『他の車もどんなものか知っておけ』。そう言ってくれ、英児父は時には小鳥にスカイラインやフェアレディZ、GTRと運転させてくれた。

 だから小鳥はその感触の違いをもうよく知っていた。

「運転させてもらったら、よくわかった。あのスカイラインは、父ちゃんのおっきな身体と手に馴染んじゃってる。重くなりがちなハンドルも上手く調整しているけど、女の私には重く感じる時もあるよ。そういう硬派な仕上げをしているんだもん。それに『龍星轟スカイライン』なんかで高速を使って他県なんか向かったら、途中で絶対に喧嘩を売られるもん」

 『喧嘩』という言葉を使ったが、いわゆる『煽られる』ということを小鳥は案じている。

 龍星轟のスカイラインと言えば、滝田モータース社長だと知れ渡っていながらも、運転席に小娘がいるのを見た日には、どんな『からかい』を受けるかわからない。気のよい仲間ばかりじゃないのも現実。

「シルビアは、父ちゃんでさえ、お母さんだって滅多に選ばないから、私も今は遠慮しておく」

 やっと父が腕を組んで納得の頷き顔を見せてくれた。

「母ちゃんのゼットなら、運転しやすいと思ったのか」
「だって。父ちゃん、お母さんが運転しやすいようにしてあげているんでしょ」
「ったりめえだろ。元は俺が乗っていた車だったけどよ。アイツが免許を取ってまで乗りたかったって言ったんだから。アイツのための車にしてきた」
「だったら、私にも運転しやすいよね。今日はそれで行く。ツーシートしかないMR2は二人しか乗れないけど、ゼットなら後部座席にも友達を乗せられるしね」

 そこで父が『他の友達?』と眉をひそめた。





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