ワイルドで行こう
「社長、それはいくらなんでも。だから小鳥はもう……」
「大人じゃないっ。まだ子供っ。それに花梨ちゃんにスミレちゃんにも変な男が近寄るのは許せんっ」
ますます二人揃って呆気にとられる。
「彼女等も、俺にとっては娘みたいなもんなんだよ」
とくにスミレちゃん。彼女のような大人しい子が、そんなナンパなサークルに集まる調子がいいばかりの男に騙されないか押し切られないか心配で、常連客になってくれた野田パパにも顔向けが出来ないと騒ぎ出した。
だから、信頼できる男である翔に『おまえ、付き添え』と言っている。もう小鳥は呆れて呆れて我慢限界、ついに言い返す。
「父ちゃん。翔兄は私のお兄ちゃんでもなんでもないんだから。大事な従業員で、今日だって仕事があるんでしょ。社長命令で娘の為に使うだなんて職権乱用だよ」
部下で言いにくいだろうから、そこは小鳥が助け船を出す。
そして翔兄も毅然と英児父に言い放つ。
「社長。スミレちゃんはともかく、小鳥と花梨ちゃんが一緒なら、大抵の男はぶちのめされるから大丈夫ですよ」
結構はっきりと言ってくれるなと思ったけれど『事実』だった。
男勝りの小鳥と気が強い美人の花梨ちゃんがタッグを組むと、余程の男じゃないと言いくるめられてしまうのが現状。そんな二人がサークル部長と副部長をしているので、信頼をしてくれる女の子達が集まってくれる。
「だけどよ。男だぞ、男。いざとなったら力があるんだぞ」
「というか。それ以前にお嬢さんは彼等が探している『女性像』ではないようなので、小鳥と花梨ちゃんは『信頼できる友人』という位置づけみたいですよ」
『うちの娘は国大の男が探している女性像じゃない?』と、英児父の頬が引きつった。だけれど、そこも翔兄は慌てず静かな口調で続ける。
「あちらのサークル部長が、最初は小鳥にちょっかいを出そうとしていたようですけど」
「うちの娘を狙っていただとおっ」
男から対象外でも対象でも、とにかくいきりたちそうな英児父だが、そんな父を制するように翔兄は落ち着いて突き進む。
「小鳥は『私は助手席なんか絶対乗らない』と言い張っているようなんですよ」
「……ほう? なるほど?」
車屋の娘は男に運転してもらう車になど乗りたがらない。それを知って、やっと英児父の勢いが緩んだ。
「だから小鳥といたい彼が『じゃあ、助手席で』と、MR2に乗せてもらったものの、峠での小鳥の豪快な運転に目を回してへばったらしくて――」
「ほうほう」
徐々に車屋親父の頬が緩んできたのを小鳥も見る。
「以後、彼も他の男性部員も『小鳥と付き合うには、余程の覚悟が必要』と胸に刻んだらしいですね」
親にはいちいち話さないことだけれど、翔兄にはそんな話をよく聞いてもらっている。今度は翔兄がそれを『今話すべき』とばかりに、英児父に伝えてくれている。