ワイルドで行こう
.リトルバード・アクセス《11a》
いつか彼が走った夜中の道。
今夜、ステレオからは親父さんのお気に入り『ザ・ヴェロニカズ』。
ハイライトで遠くまで照らし、いまこの猛禽を操っているのは私。
キーを回し、大好きなエンジン音を耳でも振動でも体感したら、小鳥の中でもエンジンがかかる。
シートに沈めた身体はシートベルトで固め、足はブレーキに、もう片方はクラッチに。左手はサイドブレーキを落とし直ぐにギアを握る。
最後にハンドルをしっかり握り、前を見据える。
――今夜は、あそこに行く。
一人でも二人でも。この日の夜、小鳥が決めた行き先はそこだった。
ダム湖では、独身の走り屋が集まる。その中に勿論、彼もいる。
たまに英児父が現れると、ここにくる連中は喜んでくれる。だけれど、そうなると小鳥はどこかに逃げたくなる。
それはたぶん、英児父も同じなのか。小鳥がダム湖を定期コースにするようになると、違うコースに変えてしまったよう。または、同世代の親父達のグループが集まる時間帯を選ぶようになった。
そのダム湖を通過し、よく見るようになった顔見知りに挨拶だけして、小鳥は『今夜の行き先』へと走り出す。
ETCゲートを抜け、高速に乗る。目指すは瀬戸内南部地方。
高速と半島の197号線メロディーラインを駆け抜けて、佐田岬へ。
宵闇が強い静かな地方の高速に、青いエンゼルのエンジン音が響き渡る。
すごい。やっぱり父ちゃんが手がけたエンジンは、全然違う。タイヤもアスファルトに吸い付くようだし、エンジンは軽やかに切れよく回転しているのがハンドルを握る手に、そして小鳥の身体中に伝わってくる!
こうなると、小鳥はもっとアクセルを踏みたくなる。だけど……メーターを確認して、その足を緩めた。
父にそう教わっている。そこに陶酔してはダメだ。どうしてもそれをしたいなら、それが出来る許されている場所を選び覚悟をもって運転しろ。それが車の愛し方だと。
ステレオから流れてくる曲もそれを知ってか、ゆっくりめのバラードに切り替わる。
小鳥も肩の力を抜いて、ただ暗闇に次々に現れる行き先を見据え、アクセルを踏む力を一定に保つ。
今夜は、私、一人……。
約束したけど。
だからって、無理矢理に一緒にいて欲しい傍にいて欲しいと合わせてもらったことなど一度もない。