ワイルドで行こう
大学生になってから、この二年。それだけの繰り返しだった。
だから小鳥は今夜『初めて』、あの遠い岬に『夜、一人で』行く。
そう決めていた。
……いや。と、小鳥はハンドルをぎゅっと握り、一瞬だけ眼差しを伏せる。
お兄ちゃんと二人きりになれたら、誘うつもりだった。
一緒に来て。岬に、一緒に行こう。お願い。だって私、もうすぐハタチ。そうしたら、私のほんとの気持ち。今度こそ聞いてくれる?
ダメでもいいの。これでダメって言われたら新しく始める。哀しいけど。
でももう『上司のお嬢ちゃんだから面倒を見ている』なんてイヤ。そんな重荷、イヤ。
そう思っている小鳥だが、いざとなるとそれが言えず、結局、彼を誘えなかった。だから今夜は『一人きりで決断する』ことを選んだ。
そんな心にかかるもやを振り払うように走っている。
今夜は一人で、あの岬に行こう。今まで何度か彼と一緒に、二人だけで夜の岬に行ったことがある。そこで龍星轟では決して話せないことを、沢山話した。
学校の話、アルバイトの話、男友達関係の相談。家族のことも、そして、彼の仕事のことも。
だから彼は、英児父が娘のことを心配していても、『小鳥は男の助手席には乗らないと決めているんですよ』なんて、父親が知らない娘の気持ちも、大事な時にさっと口にして上手く対応できる。
そして。小鳥がトラブル体質にならなくなったのも、小鳥自身が学んだことも大きいが、彼が耳を傾けて客観的で的確なアドバイスをくれるようになったからだと思う。
でもただの、『走り屋仲間』。走る者同士としての親睦を深めてきたに過ぎない。
あと十数キロで高速を降りる。一人きりの暗闇、周りは運送トラック数台のみ。でも青いMR2のバックミラーがチカッと光った。
後ろからすごいスピードで距離を縮めてくる白い車を、小鳥はバックミラーで確認。その車を一目見て、小鳥は一瞬だけ息を止める。
翔の白いスープラ!
え、どうして。私、行き先なんかお兄ちゃんに教えていない。
なのに小鳥の胸が勝手にドキドキと舞い上がる。彼が追いかけてきてくれた。
少しだけ車窓を空けると、聞き慣れたエンジン音がどんどんこちらに近づいている。