ワイルドで行こう
スープラの車内、運転席と助手席に並んで一息つく。
「夜中だけど、小鳥なら『おにぎり食べる』と言うだろうと思って、いっぱい買ってきた。俺も腹減った」
「いらない」
レモネードの栓を開けながら、間髪入れずに返答したので、翔がまた驚いた顔をした。
「なあ。お前、今日……ほんとに変なんだけど。なにかあったのか」
「試験結果が出る前でイライラしているだけだよ。就活も始めなくちゃいけないし、バイトも休みたくないし、走りにも行きたいし」
それにハタチ前には――と『今夜』決めていたことも迫っていて、過敏になっている。でもそこまでは言わない。
「あー、そうか。そんな時期か」
そこで信じてくれて助かるような、幾分も察してくれないことがもどかしいような。恋愛感情に触れるようなことになるとするっとすり抜けていってしまう、その平然としたところも相変わらず。
だから小鳥はふと呟いてしまう。
「あのさあ。翔兄て女の人から怒られること多くなかった?」
「え。な、なんだよ。きゅ、急に」
思った通りに彼が狼狽えたので、ほんとに図星なんだなと確信する。
「サークル仲間の男子をみていて、そう思っただけ」
「……サークル仲間の男子と俺が、なに?」
『何故比べる』と訝るその顔つきにも、小鳥はイラッとさせられる。
「毛布を取ってくるね。トランクを開けて」
スープラ助手席のドアを開け、小鳥はもどかしいだけの車内を自分から飛び出した。
冬の澄み切った空には満天の星。絶えずくるりと回り夜空と夜海を照らす灯台。まだ白い息が出るキリッとした夜の空気。小鳥は深呼吸をして苛立ちを抑える。
こんな状態がイヤだから、今日こそは……と。彼と二人きりになることがあったら『告白』するのではなかったのか。
だけど。なんだか。やっぱり翔兄は翔兄。あの人が好きなのに、彼と話しているとまったく遠く感じてしまうのは、子供の頃から変わらなかった。
そう。やっぱり子供? 上司の娘? だからこんな夜中に二人きりでも、一緒に眠っても、平気な顔。
それだけじゃない。『彼は女心なんて、きっとわからないんだろうな』と、ずっと思っていた。それとも、わかっていて知らぬふりなんて意地悪をしているのだろうか?
だけど、もうこの二年でわかっていた。このお兄さんは前者。『女の気持ちは、よくわからない人』なのだと。良く言えば女に媚びない硬派だけど、そこだけが鈍感で、そして彼の最大のウィークポイントだと思った。
今の小鳥なら『瞳子』の気持ちと苛立ちが、とても良く理解できる。こんなに女心を察してくれない彼氏を何年も待っていた彼女はすごいし、あそこでケジメをつけて別の道を女として選んだことも致し方ない決断だったのだと理解できた。
スープラのトランクが開いて、いつも彼が準備している大きな毛布をふたつ、抱えようとした時。彼も運転席から降りてきた。