ワイルドで行こう

 .リトルバード・アクセス《12a》




 恥ずかしさと驚きで何も言えずに固まっている間も、彼はあの涼やかな眼差しを小鳥に真っ直ぐに向けて、再度呟く。

「小鳥の誕生日まで、あと何日」

 彼の目が、いつもと違うことにも気がついた。思い詰めたような、そんな怖い目。

「あ、あと五日」

 なんとか答えると、彼が小鳥から目線を外し、ハンドルを握りながら『はあ』と大きなため息をついた。

「お、お兄ちゃん。起きていたの。だっていつも……」

 揺すっても起きないこともあったし、声をかけても起きてくれないこともあった。それだけすっと寝込む人だと思っていたのに。

「俺、寝付きもいいけど。目覚めもいい方。ちょっとのことで目が覚める。特に自宅ではない場所での眠りは割と浅い」

 えっ。 小鳥は目を見開き、今までのことを思い返し……、愕然とする。

「い、いままでも……じゃあ……」

 『だったとして、何故?』と自分で疑問を投げかけ、でも小鳥はすぐに彼が隠し持っていた答が浮かんでしまう。だがそれは、彼にとっては『決して気がついて欲しくないこと。暴かれたくないこと』なのではないかと思うと言えなかったし、小鳥自身もにわかには信じがたい。

 彼はもう、目も合わせてくれない。灯台だけを見つめている。そんな翔兄が、作業服のポケットから財布を取り出した。そこから何かを取り出すと、小鳥がいる助手席へと真っ直ぐに手を伸ばし、差し出している。

「これ。小鳥に」
「な、なに。それ」

 彼の大きな手からぶら下がっているもの。キーホルダーについている鍵。見たことがない鍵。貝細工で出来ている綺麗な『カモメ』のキーホルダーにつけられている。それを小鳥は首を傾げながら受け取った。

「俺の部屋の鍵」
「……え、お、お兄ちゃん。それって」

 翔が住んでいるマンションの鍵と判り、小鳥は驚く。

 つまり『合い鍵』! 

 『俺の部屋に、いつ来てもいい』という、彼からの『気持ち』。
 そしてその気持ちがどういうものであるのか判ってしまっても、小鳥はまだ信じられない!






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