ワイルドで行こう
「来週。小鳥がハタチになったら渡すつもりで、こうして準備して持っていたわけだけどな。キーホルダーもこれだと思うものを見つけるのに、けっこう時間かかった」
『小鳥』でも『エンゼル』でもなくて『カモメ』。それが彼が選んでくれた『ハタチの小鳥』ということ? しかもこれをハタチになったら渡すんだと、ずっとずっと考えて準備してくれていただなんて。小鳥の胸から何かが溢れていく。
「う、嘘。だって……私、お兄ちゃんから見たら、子供、でしょ……」
涙が滲んでいた。小さな女の子だった自分はまだランドセルを背負っていたし、彼はもう社会人で、背が高いお兄さんとしてもうそこにいた。
十歳も先を行くお兄さん。どんなに急いでも追いつかない。いつまでも上司の娘さんとして気遣われているだけで……。
「子供って。だからって、いつまでも子供じゃないだろ。確かにランドセルを背負って『ただいま』と龍星轟に帰ってくる小鳥は子供だったし、中学、高校の制服姿の小鳥も子供だった。でもいま、俺の隣にいるのは確かにあの女の子なんだけど……」
ハンドルを握ったまま灯台だけを見ていた彼が、やっと助手席にいる小鳥を静かに見た。カモメの鍵を握りしめて、涙をこぼしている小鳥をじっと暗闇の中、見つめてくれている。
「あのやんちゃな女の子でもあって、もう、そうではない。極端に言えば、あのやんちゃ娘とは別人……。『小鳥という彼女』にいつのまにか出会っていたんだな。と、思えるようになったのは……まあ、最近なんだけどな」
「女? 私が?」
子供だと思われていた自分が、いつのまにか、望んでいたそのままに、愛する彼から『女性』として見てもらえていた? 小鳥にとっても『いつのまに?』だった。
「逆に。小鳥は俺のことを、『お兄ちゃん』としか思えていないんじゃないか」
「お兄ちゃんだけど……、」
男の人としてずっとずっと素敵って思っていたわよ! そう叫びたかったけれど、それも恥ずかしくて言えなかった。
「男として受け入れられるのか? 男って、小鳥が思っている『カッコイイ素敵な男』ってことか」
大人の彼がなにもかも見透かしたように、言えないことを投げかけてきた。小鳥は小さく頷く。
なのに。運転席からまた溜め息が聞こえてきた。何故? アナタのこと、男として素敵だと思って、ずっとずっとアナタを見つめてドキドキしてきたのに。嬉しく思ってくれないの? そう思いたくなるぐらい、翔の表情は硬く、不機嫌にさえ見えた。
すると、ため息ばかりついて何かを長く躊躇っていた翔兄が、運転席から急に小鳥がいる助手席まで迫ってきた。彼の大きな身体が突然、シートに身を沈めている小鳥に覆い被さる。
「お、お兄ちゃん?」
「いつまでも、お兄ちゃんじゃない」
そういって、恐ろしいほど真剣な眼差しで見下ろしている彼の手が、小鳥の頬に触れた。