ワイルドで行こう



 ――あと五日だったのに。

 再び、そんな彼の微かな囁きを耳にしたけれど、小鳥はもう彼の背に抱きついたままうっとりしていることしかできない。このままずっとずっと彼の唇に愛されていたい。女の感触があっという間に身体の奥で息吹くのがわかるほど……。

 でもその直ぐ後、小鳥はビクッと身体を強ばらせた。あちこちにキスを落として愛してくれていた翔の大きな手が、いつのまにか、小鳥の肌を探り当てていたから。

 あちこちにキスをされてすっかり恍惚と溶けている小鳥の隙をついて、彼の手はもう小鳥が着ているネルシャツもキャミソールも腰からたくし上げている。

 柔らかい小鳥の肌に、熱い男の手。

「お、お兄ちゃん……?」

 あと五日だったのに。諦めたようなその呟きの意味は何であるのか、小鳥も気がついた。

 え、いま。ここで? このまま、任せてもいい? 流されちゃってもいい? でも、初めて。初めてって言えばいい? ううん。お兄ちゃんは気がついているはず?

「あと五日なんだけどな、」
 そう言いながら、小鳥を腕の中に固く抱き寄せたまま、翔の手が下腹から乳房の側まで上ってくる。それだけで、ぞくっと彼の腕の中で震えてしまった。
 乳房の下まで辿り着いた翔の指先が躊躇うことなく、乳房を包んでいたランジェリーの下へと潜り込んでいく。キャミソールの下で、その指が静かに小鳥の乳房をランジェリーカップから丸出しにしてしまう。その乳房も彼が迷わずに優しく包むと、小鳥はついに小さな吐息を漏らしてしまった。

「しょ、翔兄……」
「これが男、本当に大丈夫なのか」

 優しく包んでくれていた熱い手が、そこできゅっと小鳥の乳房を柔らかに掴んだ。

「へ、平気……。だって、翔兄、だもん」
「こんなもんじゃない」

 『初体験』である小鳥が本当に平気なのか、彼はさらに小鳥の肌に試そうとする。乳房を優しく包んでいた指先が、今度は意地悪をするように小鳥の胸の先をつまんだ。その途端、身体中に走る切ない痺れ――。

 キスより灼ける感覚に、小鳥はもう身体中から力が抜けて落ちてしまいそうに感じて、彼の背にしがみついた。

「もっと酷いコトもする」

 と、彼が息だけの声で囁いた。

 今度の翔は小鳥の様子もお構いなく、大胆にシャツもキャミソールもまくりあげ、ついに片乳房を夜明かりの中に晒してしまう。

 翔がそこで手を止め、小鳥を見つめている。小鳥も……白い乳房を露わにされたまま、ただ彼を見つめ返した。二人の顔に、灯台の光が時々あたる。翔は乳房ではなく小鳥の目をじっと見ていて、そして小鳥も、肌を荒らそうとする男の手よりも、彼の目を見つめた。

「ひ、酷いコトって。これが酷いこと……なの?」

 もちろん、恥ずかしい。どんなふうに思われているのか、とっても怖い。それに彼の顔つきが、もう優しくない。黒目がいつも以上に煌めいて、眼の力も強くて。男の顔ってそういう顔なの?

 たしかに見たことがない彼の顔だと思った。でも厭じゃない。








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