ワイルドで行こう
「これ予約、な」
「予約?」
「ああ。五日後の予約……。ほんとは俺も自信なんてなくて……」
嵐のような肌への愛撫をした人が、もういつものお兄ちゃんの顔で、小鳥の乳房を優しくシャツの奥へと隠してくれる。
「自信がないって……?」
彼もうっすらと汗ばんでいて、すこし湿った黒髪をかき上げながら、そのまま運転席へと退いていく。
「小鳥は、仲間がいっぱいいるだろ。ハタチの誕生日会だってみんながしてくれるんだろ。そういう、同世代の気が合う男に……今度こそ、お前をかすめ取られていくかもなあって。思っていたんだよ」
「なに言っているの。お兄ちゃんだって知っているじゃん。どんな男子が寄ってきたって、私が拒否してきたこと」
「そう。大学生になった途端、小鳥に近づいていくる男が続々――。これはちょっと三十になる兄ちゃんには脅威だったな」
「えー? だってお兄ちゃんの方がずっとずっとカッコイイのに」
「……小鳥も。いい女になったからな」
え、そうみえるの? 思っていなかったことまで告げられ、小鳥は目を見張った。でも運転席では、照れくさそうに悶えハンドルを握りしめてばかりいる彼の姿が。
「急に女らしくなって。それになんだよ。そんな……いい身体になりやがって。だからこの前から言っているだろ。自覚してくれって。いつまでも『私は女らしくないから』と思いこんで、女らしい格好をしていく時も無防備に出かけていって。その無防備さに、男が吸い寄せられているって気がつけよっ」
小鳥は唖然とした。あのお兄ちゃんが、駄々をこねるみたいに文句を言っている。すごく困った顔で。こんなお兄ちゃんも初めて?
「そんなに、無防備かな。だってほんとに私、女らしくなくって」
「ったく。これだもんな。親父さんがハラハラしている気持ち、俺すげえわかるんだよな。安心しろ。ちゃんと色香もあるから。オカミさん並の『いいとこのお嬢さんの匂い』しているから。しかも……予想はしていたけど……」
そこで彼が何かを小さく呟いた。聞こえなくて小鳥は聞き返したが、聞こえない。再度、聞き返してやっと聞こえたのが。
『お前の胸、思った以上にデカイ』だった。
「だからっ。ハタチになったら、すぐに捕まえないと、いつ他の男に捕まえられるかわからないと……思っていたんだよっ」
そんな、拗ねたようなお兄ちゃんの横顔も初めて……。小鳥はついに笑って、運転席にいる彼に抱きついていた。
「嬉しい。お兄ちゃんに、予約されちゃった」
「……ほんとはハタチまで、絶対に手を出さないと決めていたのに。ちくしょう」
「別にいいじゃん……。だって。私、友達の中でも、遅いんだよ」
お兄ちゃんだけと思って大事に取っておいたのに。だから今度は小鳥が小さく呟く。
「いまからだって。全然、構わないんだけど」
今すぐ。お兄ちゃんと一緒になってもいい。もう身体は熱く燃えてしまっている。このままどんなに痛くても貫かれてしまっていいと……。