ワイルドで行こう
「だめだ。今夜はだめ」
そこはきちんとしている彼らしく、厳しい顔つきに。そのまま抱きついている小鳥を助手席へと押しのけた。
そしてそこで彼が、どれだけの決意を持っているかを初めて口にした。
「小鳥のことは今すぐ欲しい。でも……。ハタチまでは、親父さんへの義理を通させてくれ」
その言葉に、今夜、彼に愛されているとわかった感動以上に、胸を貫かれた。
彼は、翔は、小鳥のことだけではない、小鳥の家族のこともちゃんと考えてくれている。小鳥の周りにある『大事』は、俺にとっても『大事』。それをちゃんと大切にしてくれていた……。
上司への義理。上司が大事にしている娘、お嬢さんだから、ハタチまでは絶対に手を出さない。手を出さないと決めていたから、気持ちも表に出せなかった。その間、徐々に大人になりつつある小鳥が同世代の男に捕まえられないか、ハラハラしていた。それが彼の二年だったんだと、小鳥はやっと知る。
だから中途半端な男の気持ちしか見せられなくても、常に『今夜、一緒に走ろう』と出来る限り手元に引き寄せ、でも留め金が外れないよう『父親の部下、俺はお兄ちゃんでなくてはならない』という、望まない気持ちとのバランスを保っていた。
だけど、今夜。ついに彼も……。そして小鳥も……。
「じゃあ、ハタチになったら……愛してくれるの」
ハンドルを握ったまま、灯台の光を見据えた彼がそっと微笑む。
「待っていたのは俺だって。まだわかっていないな。小鳥は」
その鍵を持って、俺のところにおいで。いつでも待っている。
八重歯がのぞく、あの笑顔。小鳥もそっと微笑む。ずっとずっと恋してきたこの笑顔、遠い触れられないと思っていたこの人が、今夜から小鳥の手に確かな感触。
小鳥はもう一度、翔に抱きついて、自分からキスをした。
そして初めて。小鳥が抱きついて初めて、彼の腕が小鳥の身体を吸い込むように、優しい力で受け止めてくれている。彼の身体の力も抜けて、柔らかに崩れてくれる。
「親父さんにそっくり。思ったままにストレートでロケットのようにぶつかってくる。そんな可愛い小鳥にこれからガンガン愛してもらえるかと思うと……」
彼の嬉しそうな声に、小鳥も返す。
真面目で落ち着き払っているアナタが困るぐらいに、これからは私がたくさん愛してあげる。
誰よりも。いままでの誰よりも、私がいっぱい愛してあげる!
―◆・◆・◆・◆・◆―