ワイルドで行こう



「紗英」

 兄貴達に圧倒されていると、やっと琴子先輩と同級生の主婦先輩達が揃ってやってきた。

「うわー、素敵なレストランじゃない」
「国道沿いにあって、目にはついて気にはなっていたけれど、入るチャンスが無くて」
「そうそう。こういうきちんとしたお料理のレストランって、もう敷居が高いわよね。行く気はいくらでもあるのにねえ」
「もっぱら、家計と家族で行く気軽さで……」

 『ファミレスになっちゃうんだもんねー!』と、こちらの女子会グループは意見一致、それだけで『きゃあきゃあ』と盛り上がっている。

「えー、いいなあ。琴子。いまどきの結婚よねえ」
「親族で内輪だけのパーティーに、友人と砕けたパーティー。しかもホテルで大々的にしないで、ざっくばらんに庭付きレストランで――なんてねえ」

 ドレスアップをしてきた先輩達は、大きく開けられた扉の向こうに見える花満開のガーデンをみつめて『ほう』と溜め息。

 そこで紗英も一言。

「先輩達だって、その時いちばんお洒落と言われてきたお式をしてきたでしょう。素敵でしたよ。琴子さんだって本当は先輩達とおなじようなホテルでの華やかなお式に憧れていたと思いますよ」

 ちょっと時期がずれただけでも、こうして結婚式の流行が異なる。だけれどどの花嫁さんも、その時いちばんのお式を挙げたのは変わりない。そしてそれを祝う女の子はやっぱり素敵と憧れるものなのだ。

 そして今度の主婦先輩達の目線は、主役夫妻を取り囲んでいる元ヤン兄貴軍団へ――。

「琴子が言っていたとおりね。ほんと、なんとなく……雰囲気ある」

 先輩達も『元ヤンムード』を感じ取っていた。
 それにまた人数が増えてきた。気がつけば駐車場には様々なスポーツカーにクラシカルな車がずらっと並んでいる。モーターショーの展示会場みたいな駐車場に。

 今度、滝田社長の周りには元ヤン兄貴軍団とは少し違う、『普通に見える』スーツ姿の男性陣が集まっている。

「滝田店長、おめでとう」
「琴子さん、おめでとう」

 こちらはもう琴子さんとは顔見知りの様子。龍星轟の常連客、つまり『走り屋仲間』か『車マニア仲間』と言ったところらしい。

 中には、ざっくばらんとした元ヤン兄貴軍団とは明らかに雰囲気が違う、お洒落で品の良い大人の男性もいる。

 招待状を作成した紗英にはぴんと来た。中にひとりだけ、この地方で有名な企業の息子、つまり御曹司が混じっていたから。

 新聞社に勤めているので、名前と送り先を見て直ぐに判った。その子息の名前まで『滝田社長側の招待客リスト』にあった時には、その人脈に驚かされたものだった。
 車を何台も持つオーナー。地方でままならないところ、数々の愛車を龍星轟でお世話してもらっているとのことらしい。

「いろいろな人がいるわね。すごい人数……」

 先輩達が徐々に圧倒されている。





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