ワイルドで行こう



「琴子、ほんとうに社長の奥さんになったてかんじね」

 羨ましいとかではなく、夫になった滝田社長の沢山の知り合いひとりひとりに、丁寧に挨拶をしている琴子先輩を見て『車屋のオカミさん』になったのだと主婦先輩達も肌で感じているようだった。

 そのうちに紗英の同級生も集合、つまり琴子先輩の後輩軍団も到着。

「えー。なんかすっごい男の人」
「車もすごかったよね。さすが車屋さんのパーティー」

 でもそんな紗英の同級生も、滝田社長といる琴子先輩を見てなんだかうっとり。

「お似合いだね。とっても男らしそうな人。静かな琴子先輩にはあれぐらい賑やかしい人達がいた方がいいかんじだね」
「優しすぎるもんね、琴子先輩。リーダーシップが強そうな人だから、強引なぐらいリードしてもらえる人の方がよさそう」

 彼女たちも琴子先輩が大好き。困った時に静かに助けてくれるお姉さん。紗英と同じように思っている。それに彼女たちも必ず言う。

「いい匂いなんだよね。琴子先輩」
「貸してくれたハンカチの匂いとか、貸してくれたカーディガンとか。あれなんだろう。香水でもないし柔軟剤でもないし」
「そうそう。なんだろうね、あれ!」

 ああ、今日も先輩のそばに行ったらあの匂いがするよ、きっと。と彼女たち。紗英も知っているその匂いを思い出して、おもわず『ごくり』。女の自分でもちょっとドキドキすることがある女っぽい匂い、そんな人なのだ。

 それをきっと、野性的に敏感そうなあの滝田社長がキャッチして、誰よりも敏感に感じるからこそ琴子先輩のあの匂いに人一倍酔ってしまったような気もする? と思うのも、紗英がお祝いに『ワイルドストロベリー』を届けた時に目の当たりにしたから。

 あの苺の匂いを嗅いで『琴子と同じ匂いがする。女の自然な甘い匂い』なんて、本当に動物みたいにくんくん鼻で匂って言い切る人なんて初めて見た。

『彼ね、野性的っていうか。動物みたいなの。野生的な勘が研ぎ澄まされているていうの?』

 琴子先輩がそう言っていた時に『なんですか、それ』と笑ったけれど、後にその動物的な感覚をみせつけられて『なるほど』と納得。

 もうあの男性は琴子さんを手放さないだろうなという確信は、そんなところからもある。もうとろけて惚れ込んでしまっているのは社長の方なのだ。『こいつこそ、俺のつがい』、動物的な男が嗅ぎ取ってみつけた女。紗英はそう思う。




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