ワイルドで行こう

1.はい社長、頑張って!(2)




 新郎新婦それぞれ、こちらから代表をお願いしている。まずは滝田社長の友人から。武智さんがその男性にマイクを手渡す。特に親しくしていた社長の元クラスメイトとのこと。

「えー、タキ。結婚おめでとう。念願の奥さん、やっとみつけたな。なんだかんだ言って、お前がいちばん寂しがり屋だからさ。伴侶見つけてくれて、俺達もやっと安心したよ」

 ふざけるかと思っていたのに、なんだか兄貴達が妙にしんみりしているので紗英はびっくり。まさかこのまま皆で泣き出すんじゃ……なんて思うほどだった。

「しかも。如何にもお前がメロメロになりそうなお嬢さんで、この野郎、俺が琴子さんを抱きたいわ!」

 いきなり出た『お前の奥さん抱きたい』発言に、やっぱり兄貴達がどうっと湧いた。当然、滝田社長は『絶対ダメ、てめーら、琴子に触るな!』とムキになっているし。本当にこの人たちって真面目なのかふざけているのかわからなくなる。

 そしてやっぱりこの人達はおちゃらけている。

「既に嫁もガキもいる俺からのアドバイスです。車屋らしく、女に乗る時は大事なところを潤滑油たっぷりに整備してあげてから乗ってあげましょう。そうするととっても気持ちよく乗せてくれるでしょう。これ子作りの秘訣です」

 もう会場全体が湧いた。女子会グループの先輩と紗英の同級生達も『やだ、もう』とか言いながら、笑っている。

「このバカっ。今日ぐらいそういう冗談は言うなよ!」

 車屋の例えを子作りに持ち出され、滝田社長が真っ赤になって怒っているのももう定番の流れ。そして琴子さんも笑っていながらも、やっぱり頬を染めていた。

 だけれどそれで最後は盛り上げてくれるのが兄貴達。いい雰囲気は変わらない。さて、次は新婦の友人代表。こちらも琴子さんと特に仲が良かった絵里香先輩に頼んである。

 紗英から絵里香先輩にマイクを渡す。

「琴子、結婚おめでとう」

 賑やかしい兄貴達と打って変わって、落ち着いた女性の声に会場が少しばかり静かになった。

 しかもそこで、絵里香先輩が黙ってしまった。マイクを握りしめ、琴子先輩をじっと見てなにも言えない顔。紗英はドキリとする。なんだか奇妙な胸騒ぎ?

 案の定、そこで急に絵里香先輩がハンカチ片手に泣き出している。『え、』と紗英も困惑……。側にいた他の主婦先輩達が『絵里香』と後押しをしているのだが。

「水くさいんです……」

 やっと出た一言がそれだった。あんなにヤン兄達が盛り上げてくれた空気が一気にしぼんでいく。でもそれは熱くなりすぎた空気が程よく冷めていくといえばいいのか。






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