ワイルドで行こう
「琴子、安心したよ」
絵里香先輩も泣いていた。そして周りの先輩達後輩達から『琴子、先輩、おめでとう』の拍手に、やっと琴子さんも笑顔になる。
だけれど柔らかい祝福の拍手が会場中響き、夫妻に贈られる和やかな雰囲気に落ち着いていた。
すると、それを見計らった武智さんが紗英に耳打ちをする。
「ちょっとしんみりしちゃったね。そろそろ『本番』行こうか」
「そうですね」
紗英はちょっと苦笑い。こんなにいい雰囲気になったのに。
心の中で『滝田社長、ごめんなさい』と謝っておく。
それからもう一度マイクを握り直し、紗英は会場に向かう。
「それでは。とてもお幸せそうな新郎新婦に、さらにお幸せになって頂こうかと思います」
これは司会者からの合図。『既にヤン兄軍団達は武智さんの統率で結束済み』。その作戦をただいまから実行。
なので、しんみりしていた兄貴達の目がきらりんと輝いた。なんという『無邪気な悪戯少年的な輝き』! その輝きが軍団全体にまたたくまに広がったので、それを見た紗英は流石にたじろいだ。
だが、ここから司会は『武智さん』。戸惑う紗英の隣で彼がマイクを持って――。
「えー、あんまりにもお幸せそうなので。その溢れてこぼれそうなピンクのハートを分けて頂こうと思います。はい、欲しい野郎共は、既婚者も独身も関係ないよ、『早い者勝ち』。琴子さんの所に集合!」
『琴子の所に集合!?』 変な号令にいちばん驚いているのは、当然、滝田社長。
だけれど兄貴軍団の動きは素早い。あっという間に、滝田社長と寄り添っている琴子さんの足下へと男達がぐわっと集まった。
滝田夫妻のギョッとした顔。しかも新妻の足下に、あの元ヤン風情の兄貴達が、あの『ヤンキー座り』で固まっているのだ。
「ちょ、お前ら。なんのつもりだっ」
その男性達が眺めているのは、琴子さんの足――。ふわふわの白いニットワンピースから綺麗に伸びている白い足。それどころか、その向こうにあるもっと艶っぽいものを探すような目つきに、琴子先輩もちょっと怯えている。
それに気がついた滝田社長が、琴子先輩をかばうように背中に隠そうとしたのだが。そこで武智さんが一言。
「はい、滝田社長だめですよー。いまから『ガーター・トス』をしてもらうんですから」
ガーター・トス? 滝田社長一人だけがきょとんとしている。何故なら、怯えているが琴子さんは既にもうこの催しを知っていて協力済み。
この会場に彼女が到着してすぐに、紗英が強引に仕込んだから。新婦、琴子さんの足に『ピンク色のガーターベルト』を装着済み。
「いま、新婦琴子さんの両足に、とっても色っぽいピンク色のレエスのベルトをつけてもらっています」
なに。と、滝田社長も『女房も荷担済み』と知り、彼女を見下ろした。琴子さんも『ごめんなさい』と、旦那さんから顔を背けてしまう。
奥さんの太股、ずっと奥。そこに幸せのリング。それをいまから、じろじろ見るばかりの元ヤン兄貴軍団の目の前で、滝田社長に外してもらうのだが。