ワイルドで行こう
「滝田店長、縁起いいことはやっておかないと、後々後悔するぞー」
龍星轟常連の男性陣も集まってきて『外せ、外せ』と騒ぎ始めた。
「ほら、タキさん。ちょっと琴子さんの足を持って外すだけだから」
武智さんのさらなる催促。
「ちくしょー!」
ついに滝田社長が、胸に抱いている琴子さんの片足を持ち上げる。白いニットワンピースの中に、男性の手が忍んでいく。そのエロチックな光景に、男達も女性達も湧いた。
琴子さんの恥ずかしそうな顔もちょっと見物。滝田社長の腕にしっかり掴まって彼の手がなにをしようが許して任せている姿も、なんだか女っぽいお姉さん。紗英はついうっとり……。
ああ、いいなあ、琴子先輩。すっごくあの手に愛されているってかんじ……。熱い手の温度がこちらまで伝わってきそう。
途中滝田社長が『大丈夫か』と琴子さんを見つめて、琴子さんが『うん』と静かに見つめ返したりして。まるで溶けあうようなふたり。見つめ合っているだけで、いまにもキスしちゃうんじゃないかって雰囲気でドキドキする。
ふたりから甘い熱気がふわっと立ち上った気さえした。
「どんだけ上にはめたんだよ、琴子」
かなり奥まで手をつっこんで、外れないリングをなんとか引き下ろす滝田社長の困惑顔。
持ち上げられた足とめくれる裾、もうギリギリで琴子さんの奥の奥が本当に見えてしまいそうで、自分ではめておきながら紗英はひやひやしてしまう。
「うおー、琴子さん色っぽいなあ。くっそー、タキの身体だなんて、もったいねえ」
だけれどそこは臨機応変な滝田社長? 皆にひやかされて頭に血が上っていたようなのに、もうその横顔が落ち着いていた。ひやかす同級生達の目線を遮るように、琴子さんの足を下げて自分が床にひざまずいて視界を遮り、静かにつま先まで外すことに成功。その姿は先ほど慌てた旦那様ではなく、奥さまを守る騎士のようだった。
それでも男達のひやかしは止まない。
「はやくそのリング、投げてくれよ。タキ兄!」
「奥さんの匂い、知りてえー」
『奥さんの匂い』に、せっかく落ち着いたはずの滝田社長がぴくりと反応。せっかく外したピンク色のレエスリングを片手に握りしめ、投げようとしているのに投げられない姿が今度はそこに。
『はやく、はやく』
その急かしに、まだ滝田社長が躊躇っている。紗英にはわかる。琴子さんの匂いって、きっと滝田社長にはとっても大事なもの、『俺だけのもの』と思っているんだろうなと。
「ほら、タキさん! 幸せのお裾分けしてあげてよ!」
最後、マイクを持っている武智さんの一声で、やっと滝田社長がガーターベルトを片手に掲げる。
「このクソ野郎ども! 二度と俺の女房に近づくな!」
その願いを込めたのか、滝田社長は誰もいない遠いところへそのリングを投げた。女房の肌に触れたそれすらも、触られたくない様子がよく分かって、もう紗英も女子会の先輩達も大笑い。
しかもそのリングを巡って男達がわあっと子供のように走っていく様も、とてもじゃないけれど落ち着いた大人の男達には見えなかった。