ワイルドで行こう

2.明日、行こう (1)




 夫妻の夕食時間はいつも遅め。勤めている琴子が帰ってきてから、そして、夫が経営する『龍星轟』が閉店してからになる。

 それでも、ふたりで向き合ってゆったりと食事をする。彼がなんでも美味しい美味しいと綺麗に平らげてくれるから、琴子も嬉しくなる。

「先に風呂にはいるな」
「はい、お願いします」

 『お願いします』と送り出すのは、夫の英児が入浴の準備を整えてくれるから。いつの間にか、お風呂のお仕事は旦那さん担当になっていた。

 独身生活が長かったことと、常に自営宅で留守をしているのは彼であること、また共働きであることもきちんと気遣ってくれ、手が空いていれば出来ることはなんでもしてくれる。

「俺の汚れた作業着、自分で洗うから、お前はやらなくていいからな」

 それも結婚する前から自分で毎日やってきたことだからやらなくていい――ということになっていた。

 一生懸命働いて汚しに汚した作業着を甲斐甲斐しく洗って綺麗にしてあげたいという『女心』が最初はあった。そう思って同居してすぐに、彼の作業着を洗濯してとても驚いた。洗濯機の中で渦巻く水が真っ黒に! もちろん、他の洗濯物とは別にして洗ったが、その黒さが毎日かと思うと、流石に琴子は青ざめた。

 『とても汚れるのね、驚いちゃった』と言っただけなのに。それが女性にとってどう案じるものか直ぐに彼は気がついてくれ、『速攻、即決の男』である英児らしく、琴子になにも言わずに最新型のドラム洗濯機を買ってきてしまった。それにも琴子が唖然としていると、『独身の時から俺が使ってきた洗濯機は、これからは作業着専用な』と二台使えるようにしてくれた。

 しかも。洗濯機を分けてくれたなら、ついでだから二台一緒に回すと琴子が言っても、『今まで通り、作業着は自分で洗う』と英児が言い切り、その通りに、毎日自分で洗って自分で干している。

 そういうところ、本当に良くしてくれる。琴子もとても過ごしやすく、もうずっと長く住んでいるような気になるほど龍星轟宅に馴染んできていた。




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