ワイルドで行こう
「……あっ、もう」
丸出しになった乳房に思う存分吸い付いていくる。大きな口で貪るように吸われていたかと思うと、熱い舌先でゆっくり舐めあげ、時にはちょっと強い甘噛みまでして。英児はそうして琴子の胸に夢中になる。
その時、彼の匂いが立ち上る。彼の愛撫で悶え肌を熱くしてしまったのは琴子だけじゃない。女の肌を愛している彼も、男の肌を熱くしてあの匂いを放ち始めている。
女の琴子とは全く異なる、男の匂い。石鹸の香りの向こうから強く迫ってくる男だけが持っているあの匂い。それが琴子の鼻先を何度もかすめていく。
熱い舌先に激しく愛撫されるだけでは得られないなんともいえない高揚感へ誘う、その匂いが琴子をとろけさせていく、夫の匂い。他の男がこれと同じ匂いを持っていることを知っている。でも他の男じゃダメ、この人の、この匂いなの。けっして『いい香り』ではない。石鹸で誤魔化しても妻の琴子だから嗅ぎわけてしまう、彼だけの肌の匂い。男の体臭。ほんとうはそれがいちばん、琴子を喘がせる。この匂いこそ、『裸の女』にさせてくれる。女の欲望を剥き出しにして、彼が噛みついてきたら牝の自分も噛みついて『もっともっと』とあからさまにねだる動物になれる。夫の匂いは、そんな唯一無二の匂い。
「琴子、もうこんなに」
夫の長い指先が、躊躇なく濡れこぼしたそこに、するりと入っていく。
もうこんなに……。よく言われる囁き。『まだ少ししかお前に触っていないのに。もうこんなに濡れている』。そういう囁き。
琴子もわかっている。この人とつきあい始めた頃、ここまで敏感ではなかった。でもいまはもう……。彼に愛されすぎて、キスをされただけでスイッチが入ってしまうようになった。乳房を掴まれたらもう溢れている、下着を濡らしてしまう。そう自分でも分かる時がある。それほど彼に女の性を明かされてしまったから、もう隠しようもない。牝の本能のまま、感じたまま、彼が望むとおりにその印をこぼすだけ。だからもう、恥じらいはない。この人だから、感じるままにいくらでも濡れこぼしてもいいと思っている。
琴子はそのまま、シーツの上で足を開いた。恥じらいをなくした妻が、そうして言葉なしに夫に求めているもの。
こんな私じゃ、イヤ? そう眼差しで彼に問うていたのは、もうだいぶ前。それまでは夫の意志で開いてもらっていた。でも、いまは……だって……この人がそれを許してくれたから。女として恥ずかしがらなくていいんだと。『もっと俺を求めろよ』と言ってくれるから。