ワイルドで行こう

 .明日、行こう (2)





『甘いフルーツのイチゴって匂いじゃないんだよ。マジで名前の通り野生の匂い。つまり人間の身体とか皮膚に近いって言うのかな』

 これまた。野性的な感性を持っている夫らしいと、琴子もなんとなくわかるような気がして『そうなの。こんな可愛い匂いに似ていると言ってくれて嬉しい』と微笑んでみたら――。

『お前の身体中、どこもかしこもイチゴ』

 匂いがするの? と聞いてみたら、それもあるが……と英児はそこは重要じゃないとばかりに軽く流した。そして。滴に濡れる小さな実を大きな指で摘んで……。

『ツヤツヤ濡れて、琴子のイチゴみたいだろ。この匂い、甘い味、どんなに俺が吸ってもいつまでも旨くてさ。それでお前が可愛く泣いてくれるし』

 え。ちょっとまって。どこを思い浮かべてそれを言っているの? と、琴子は眉をひそめる。

『どこまでも濡れて俺に食べろ食べろって誘うだろ。どんなに吸い尽くしても、甘いのいっぱい出してくれるしさ……』

 この時、やっと琴子の頭に『なんのことか』到達した。それが判った時の、ガツンとした衝撃。

『ヤダ、英児さんったら。紗英ちゃんが幸せを願って、こんな可愛い苺をお祝いにくれたのにっ』

 そんな、そんな、女の身体のいちばん卑猥な、琴子の秘密をそんなふうに喩えるなんて!

 いままで琴子の傍に、こんなあからさまにエロチックな言葉をつかって喩える男性もいなかったので、ある意味ショック! この元ヤンのおおらかな夫が、ちょっとしたエッチトークを平気ですることはまあまああって最初はびっくりするけど、琴子もだいぶ慣れたと思っていた。

 まさか。こんな『可愛いと目で見て楽しむ』苺を見て、『女房のあそこと一緒』とか、そんな目で見ていたなんて!!

 こういうところ。女子校ぽく育ってきた琴子と、男臭く生きてきた英児の大きな差。

 最近、ベッドでキスをしても『イチゴ』、乳房を吸っても『イチゴ』、そしていまのような英児だけに許している小さな秘密の粒があるそこまで、『イチゴ』と変なことをいうようになったのは、このことだったのだと。




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