ワイルドで行こう

 .明日、行こう (3)




 バースデー前日、金曜日。翌朝。

 一週間最後の出勤の支度をする。今日は仕事帰りに彼が迎えに来てくれて、そのままおでかけだからと、琴子はちょっとお洒落をした支度を済ませる。

 今日は彼が事務所まで送ってくれ、仕事が終わったら迎えに来てくれる約束。そのまま彼の車で、ドライブ。一晩早いお誕生日ディナーかな? 琴子もつい嬉しくて頬を緩めてしまう朝。


「英児さん。そろそろ……」
『おう』

 洗面所から声が聞こえたのでのぞきに行くと、いつものティシャツにデニムパンツ姿の彼が歯を磨いて口をすすぎ終わったところ。

「支度できたか。じゃあ行くか」
 そんな夫に琴子は聞いてみる。
「私……。今夜もゼットがいいな」

 彼の運転で銀色の車で遠くに連れて行ってもらう。それが琴子のお気に入り。恋の始まりを思い出させてくれるから。
 だけど英児は『そうだな』と笑っただけ。いつもと様子が違うように感じたのだが。

 そんな英児が、半袖の下、逞しい二の腕を少ししかめ面で気にしている。

「どうかしたの」
「い、いや。なんでもねえよ」

 どこか隠すように彼が目線を反らしたので、琴子は気になって、強引にその腕を取ってそこを確かめた。

 でも。琴子は『あ』と気がついてしまう。
「こ、これ……。昨夜、私、そんなに?」

 猫にガリガリと引っかかれたような赤い傷がいくつも残っている。身に覚えがあり琴子は我に返る。





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