ワイルドで行こう
3.ワイルドで行こう《Born to Be Wild》 (1)
やっぱり雨が降ったり、やんだり。
勤め先の三好堂印刷近くにある小さなカフェ。そこがつきあい始めた時から、彼との待ち合わせ場所。大きなバイパス車道の通りにある。
小さいけれど二階建てなので、テーブル数はまあまあある。静かで混まないので、待ち合わせをするにはゆったり過ごせるカフェだった。
『ちょっと俺の方が時間かかる。外回りにでているんだ。三十分ぐらい遅れる』
仕事を終えて徒歩でこのカフェに着くころ。そんなメールが携帯に入った。
この雨の中、スカイラインに乗って外回り。龍星轟に帰ってゼットに乗り換えて、そうして来てくれるのかしら?
スカイラインのままなら、直行でここにこられたのかもしれない。ちょっと我が侭だったかなと、琴子はいつもの二階席へとカフェの階段をあがった。
お馴染みの席で紅茶を飲みながら、雨に濡れるバイパスを窓から眺めた。ちょうど目の前が交差点。雨に濡れているけど、車道も車も、信号もどれもきらきら光っている。
それに雨もあがったよう。暗かった空に、薄明るい夜空と月が見えてきた。
それだけで『綺麗』と琴子の心もなごむ。
「スカイラインでもいいわよ――て、伝えておこうかな」
携帯電話を片手に、琴子は『行ったり来たり大変だから、スカイラインでもいいですよ』とメールを送信してみた。
だけど。数分経っても音沙汰ナシ。運転中なのかなと首を傾げた。
読みかけの文庫本を久しぶりに開いて、ちょっと長い待ち時間。冷めた紅茶がなくなるころ、琴子はちょっと心配になって、雨上がりの交差点を眺める。
携帯電話も再度確認したけれど、なにもなし。
その間に、周りの席の客が二組ほど入れ替わる。長く一人で座っているのは琴子だけ。
背中合わせの席から煙草の煙が漂ってくる。夫が喫煙家だから、琴子もいつのまにかそんな席に一人でも座るようになってしまった。