ワイルドで行こう
「なんだよ。今夜は俺がそういいたかったのに。いつも琴子に先を越されるな」
ちょっと不満そうに口元を曲げた彼が微笑みながら、琴子の顔を覗き込む。
両手で頬をつつんでくれた英児を、琴子も見上げる。
「俺、マジでお前と一緒になって良かった。車だけでいいなんて言ってくれるの、お前だけだよ」
「だって。とってもすごいロケットなんだもの、英児さんは」
なんでロケットなんだよと、英児はまだ馴染めないらしい。
「本当に。いつもびっくりするの。今夜だってまさか白い馬を運転できるなんて思わなかった。でも私、海の上、空を飛んでいるみたいだった。つれていってくれたのは英児さんよ」
きっとこれからも。こんなふうに。動物みたいに思い付いたことをすぐさま次々と実行していく彼に抱かれて、琴子は連れ去られていくのだろう。
なにごとも野性的で、そして瞬発ロケットの旦那さん。いつまでも、いつまでも、そんな彼とそのままありのまま、思いついたままにすっとんでいってしまいたい。
「だったら。これからも覚悟しておけよ。俺、堪え性ねえから、欲しいと思ったら、やりたいと思ったら、すぐにかっ飛ばしてしまうから」
そういって彼が真上からきつく、琴子の唇をふさいだ。そして強く、隙間無く、奥まで熱く愛してくれる。
今日も、彼のキスは潮の香と一緒。海の匂い。野性的に琴子を奪っていく、愛してくれる。
このロケットに乗って……。いつか、小さな乗員も一緒に乗せてあげたい。小さな乗員をたくさん乗せたい。琴子は愛されながらそう思い描いていた。
静かな島の夜、橋のたもとの潮風。
瀬戸内の夜の灯りに輝く白いフェラーリの運転席に、今度は英児が乗り込む。
「尾道か~。なんかあるかな。以前行った時のあそことか、今はどうかな」
ひとまず、スマートフォンで彼があれこれ探し始める。しかしすぐには見つけられないようだった。
でも。無計画でも平気な彼だけれど、いつもの頼もしい手際で、まるで計画していたかのように美味しい店を見つけ、今夜の宿を探し当てるだろう。
きっと今夜も大丈夫。彼と安らかに抱き合って眠れるはず。いつも龍星轟でそうしているように。普段着のままでフェラーリに乗ってきた彼のように。
いつもと同じ夜を彼は見つけてくれるだろう。
「とりあえず、行くか。なんとかなるだろ」
そして。知らない街に、彼は本能だけで駆けていこうとする。
「うん。行きましょう」
琴子も赤い助手席でシートベルトを締めて、発進準備完了。あとは風に乗るだけ。
龍と星のワッペンを腕に掲げる彼が、馬のハンドルを握る。
今夜のロケットにエンジンがかかる。
アクセルを踏むと、勇ましいエンジンが吠える。
マフラーに火花が飛び散ったら、黒いタイヤがアスファルトを強く蹴飛ばし、私たちのロケットが真っ直ぐに走り出す。
潮風に乗って、夜空の向こう、どこへ行くか見えなくても貴方は駆けだす。
海から生まれたような潮の匂いがする貴方の隣で。
《Born to Be Wild》 ワイルドで行こう!
※ ワイルドで行こう 完 ※
★長い間、ありがとうございました。なお、シリーズは次世代へ移りまして、来年は娘の小鳥をメインとした小鳥大人編の開始を予定しております。