ワイルドで行こう
「気遣い細やかで、いかにも女の子っていう琴子がなにもしないっていう驚きってやつ?」
「ほんとにもらえなかったんだ。なんにも?」
なんにも――と、英児は首を振る。やっと眼鏡の後輩が、レンズの奥で驚きの眼になる。
「それが本当なら、俺も意外だな。だってバレンタインて、女の子が素敵なものを探して買うというのも含まれているよね。化粧品だってクリスマス限定のコフレとか、琴子さんいっぱい買いそろえていたもんな。なのにバレンタインはしないだなんて」
「別によう、絶対にもらいたかったでわけでもねえんだけどさあ」
「女の子らしい琴子さんなら、このイベントは絶対に外さないて、ちょっと期待しちゃったんだ」
そうです、そうなんです。と、英児はしょぼくれてみた。
「俺なんか、あんまりもらったことないもんなー」
「香世ちゃんの時も? 千絵里さんの時も?」
英児は黙った。もらわなかったわけではない。ただ、琴子ならどんなふうにしてくれるのかなという期待があったのは本当のこと。