ワイルドで行こう

 白いレーシーブラウスに紺のスカートというオフィススタイルのまま。仕事から帰ってきて、すぐに矢野じいにスカイラインのドレスアップのためにピットへと渡したのだろう。夕方、英児が帰ってくる頃に引き渡せるように……。しかしそれも間に合わず、驚かす前に見られてしまってバツが悪そうな顔で突っ立っている。
「琴子……、こういうことだったのか」
 英児も驚きすぎて、どうすればいいかまだわからない状態。
 ほんとうに、琴子らしい女の子が選ぶようなちっちゃなプレゼントで充分だったのに。それがどうぶっとんだのか、英児が買おうと思ってなかなか手が出せなかったものを彼女がこっそりと注文してくれていたなんて。チョコレートどころの話じゃない。
「いつも、カタログを見ていたのを知っていたから。プレゼントといったらこれかなって。クリスマスは結婚前で忙しかったからできなかったし……」
「つうか、琴子……、つうか……その、なあ……。てか、これいくらすると思ってんだよ」
 値段を知っているだけに、どれだけ彼女が奮発して頑張ってくれたかわかってしまうから、余計に複雑だった。
 手放しで喜ばない英児を見て、琴子も戸惑っている。なんだか空気が、バレンタインのほんわかした空気ではなかった。

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