ワイルドで行こう
 でも、オレンジの外灯に浮かぶ夜のバイパスを走り抜けるこの車に乗っていると、力強く彼にどこかへと手を引かれているようでそのまま身を任せてしまいたくなる……。
「飯、食った?」
「ううん。まだ。帰ってゆっくり食べようと思って」
「お母さん、待っているんだ」
「大丈夫。月中から残業期間と心得てくれていて、食事だけ準備して先に寝るようにしてもらっているから」
 『そっか』と、彼がホッとした顔。
「あと一時間、腹減っているの我慢できる?」
 どうしてと聞きたかったけど。このまま任せて彼ならどうするか。そんな期待感。
「うん、出来る」
 助手席から微笑むと、やっと彼と目が合う。でも運転中なので直ぐに視線はフロントへ戻っていく。
「待ってな。いいとこ連れて行ってやるよ」
 さらにアクセルを踏み込む彼。銀色の車がぐんっと夜の国道を突き進む。
 車高が低い車の目線は普通の車より下なので、道路が直ぐ下、アスファルトを這うように感じてしまう。走り方がちょっと重い? シートベルトで固定している身体にちょっとした重力を感じ、シートに押しつけられる感覚も。
 でも。こんなスピード感、初めて。まるでロケットに乗り込んだ宇宙飛行士の気分――。琴子の心が高揚していく。
 唸るエンジン音、がっしりとした深いシートに乗っている琴子はぐんぐん引っ張られ連れ去られるような感覚に、また胸踊らせていた。
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