ワイルドで行こう
「これこれ。オレンジの香りがしておいしいの」
「有り難うございます。実家の母がよく作ってくれていたものなんです」
「お母さん、元気? 身体は大丈夫? 一人で寂しいんじゃないかしら。お盆は帰るんでしょう」
「しょっちゅう帰っていますが、他界した父のお参りはしたいので迎え火と送り火はしたいと思っています。そちらにもきちんとご挨拶に行きたいので、よろしくお願いいたします」
お辞儀をすると、義姉がアイスティーを飲みながら『相変わらずねえ』と琴子を見て微笑んでくれる。
「これからは、英ちゃんのことは琴子さんに頼もうとは思っているんだけれど。お義父さんとの橋渡しは一筋縄ではいかないから、私も助けるから安心してね」
「はい。お願いいたします」
お盆の実家へのご挨拶。それは琴子も気にしていた。でも、滝田家に結婚のご挨拶へと訪問した時にはお舅さんも英児も喧嘩にはならなかったから、あんなかんじであればいいなと願っている。
『おかしいな。親父にまたくどくど説教されると思っていたんだれど。なんにもいわれなかったなあ。琴子がいるからか???』
初めてのご挨拶の訪問の時、ほんとうになにも言われなかった。だけれど、二人の父子はほぼ無言。会話がなかった。お義兄さんとお義姉さんが笑顔で話を取り持ってくれるというかんじで。ただ、和やかな空気半分、父子の冷めた空気半分というのは否めなかった。