ワイルドで行こう
琴子も下の店舗まで、愛子を見送りに降りた。
車に乗り込むところで見送っていると、ピットから英児が慌ててとんできた。
「姉ちゃん、あとちょっとだから待っていてくれたらいいのに。なんだよ。もう帰るのかよ」
「用事は済んだから。琴子さんに頼んであるよ。じゃあね、お盆に帰ってくるのを待っているからね」
「……うん、わかった。行くからよ、よろしくな」
本当に弟のような顔をしていた。この歳が離れたお義姉さんは、英児にとってはきっと大人のお姉さんで、実家ではお母さんの代わりだったかもしれないと琴子は初めて感じた。
愛子の車を見送ると、作業着姿の英児が溜め息をついた。
「実家に行く前に気を付けることがあると来てくれていたんだ。親父が俺のなにが気にくわないとか、こういうの心配しているとか前もって教えてくれてさ。だからなにか言づてがあったのかと思ったのに……」
「なにもなかったみたいよ」
「琴子に頼んだってなんだ?」
「お嫁さん同士のヒミツ」
はあ? なんだよ、なんだよ――と、まとわりついてきそうになったけれど、仕事中の社長さんなので琴子はするっとなんとかかわして二階に戻った。
愛子義姉が置いていった若い頃の英児の写真。それをもう一度、ゆっくり眺める。
「いまの私なら、絶対にひと目ぼれ」
いまよりずっと鋭くて生意気そうな眼差しに、かっこつけ。でもこの頃からなんとなく龍っぽいセクシーさが備わっていたんだなあと、琴子はしばらくしみじみ。
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