ワイルドで行こう

 英児もなにかを思い出したのか、眉間にしわを刻み、怖い顔のまま黙り込んでいる。
「どっちも素敵ってときめいちゃったの」
 そのままの気持ちを琴子が笑顔で告げた。なのに、英児は逆に不機嫌になる。
「こんな悪ガキの俺なんか、素敵なわけないだろ。さんざん母親や兄貴に姉ちゃん達に心配かけてきたんだから」
「でも。この頃からもう整備士としてきちんと働いていたんでしょう。いまの英児さんの雰囲気、ちゃんとあるもの」
「矢野じいにどつかれてばかりで、毎日ふて腐れていたけどな」
 でも。それも若いからこそじゃない――と言ってみたが、英児は思い出したくない過去のようにして不機嫌なまま。
 それでも琴子は英児にお願いしてみる。
「この写真、もらってもいいかしら」
「はあ? そんなころの俺を?」
「うん。手帳に挟んで時々眺めたいの」
「なんでだよっ。そんな琴子が知らない頃の俺なんかより、目の前にいまの俺がいつも一緒にいるじゃないかよ」
 ぱしりと写真を取られてしまう。

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