ワイルドで行こう

「……ごめんなさい。なんでもないの。ただ、英児さんが若い時もかっこよくて素敵だったから……。この時も一緒に過ごしたかったと思っただけ」
 どうしてか感情的になってごめんなさい。
 自分もどうかしていたとしょんぼりと琴子はうつむいて、いつもの自分に戻ろうとした。
「なんだよ、琴子。らしくねえな」
 すぐ目の前、そばに。背が高い彼が寄り添ってきてくれていた。
 琴子の頭を大きな手でそっと胸元に引き寄せ、撫でてくれる。
「でもよ。俺のことで、そんな感情的になってくれる琴子、嬉しいわ。びっくりした」
 いつもロケットみたいに真っ正面からガバッと抱きついてきて、またたくまに彼の腕の中、彼の手があっという間に琴子の肌に触れているのに……。今日はとても優しい。
 だから、琴子もそのままそっと彼の胸に甘えてみる。
「英児さんのなにもかも。ぜんぶ、欲しいの。私」
「ぜんぶ、おまえのものだよ」
 そういって、ついに英児が『欲しい』と願った写真を二枚、琴子に差し出してくれた。
「これも、琴子のものだ」
 今日は頼もしい兄貴の眼差し。その目をみただけで、琴子はいまでも泣きたくなるぐらい気持ちが溢れてしまう。

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