ワイルドで行こう
窓が一枚の絵画のよう。穏やかな夜の海と空に昇っている途中の大きな月。絶好のロケーション。月が映る海面には、ゆらゆらとした檸檬色のリボンのような道がこちらの店へと向かっている。
彼が笑う。
「そう。今日はこの時間帯に月が昇るってことを新聞の暦を見て気がついたんだ。だから琴子さんに見せたかったんだよ。でも残念。月が出てくる時間に連れてきてあげられなかった」
「それで、電話をしてくれたの?」
「うん。でも仕事じゃあ仕方ないって諦めたんだけどさ。でも、どうしても見せたくて。ダメ元で迎えに行って、月が昇りきってしまう十時を過ぎても会社から出てこなかったら帰ろうと決めて、あそこで……」
やっぱり。彼ってとっても素敵なものを届けてくれる。コートも蛍も、そして今日は月。
「ほんと、滝田さんって。その日その時一番素敵な場所を知っているのね」
「そのかわり。洒落たレストランじゃないけどな」
琴子は首を振る。こんな素敵で嬉しいサプライズはなかなかないと、彼に微笑む。
それに『琴子さんにどうしても見せたくて連絡した。仕事中でダメだったけど、どうしても連れて行きたくて待っていた』なんて……嬉しくないはずない。
彼と向き合って席に座る。月夜の演出なのか、店の灯りは最小限。二人のテーブルは青白い月明かりに照らされていた。
「うーん。でもおすすめの一品が『焼きうどん』というのは、お洒落なOLの琴子さんには言いにくかったりする」
向かいの席で彼が困ったように唸ってしまう。
「ううん。美味しそう。オススメならそれ食べたい。お腹すっごい空いている」
それならと、彼がマスターを呼んだ。
「焼きうどん二つ、それから今日のピザなに」
「ホウタレイワシ(カタクチイワシ)のピザ。一夜塩漬けにしただけのアンチョビ風」
「それももらうわ」
「かしこまりました。あ、また車見て欲しいから、近いうちに連絡するよ」
やはり知り合いだったよう。ジュニア社長と同じ顧客という様子だった。
「うん、わかった。店に連絡してくれよ」
「はいはい。それでは失礼しますね」
だけれど、マスターは最後にニンマリとした意味深な笑みを彼に向けて去っていった。どうやら『女連れで来た』という密かなる笑みのよう。その途端に彼が照れてぶすっとした顔になる。
彼が笑う。
「そう。今日はこの時間帯に月が昇るってことを新聞の暦を見て気がついたんだ。だから琴子さんに見せたかったんだよ。でも残念。月が出てくる時間に連れてきてあげられなかった」
「それで、電話をしてくれたの?」
「うん。でも仕事じゃあ仕方ないって諦めたんだけどさ。でも、どうしても見せたくて。ダメ元で迎えに行って、月が昇りきってしまう十時を過ぎても会社から出てこなかったら帰ろうと決めて、あそこで……」
やっぱり。彼ってとっても素敵なものを届けてくれる。コートも蛍も、そして今日は月。
「ほんと、滝田さんって。その日その時一番素敵な場所を知っているのね」
「そのかわり。洒落たレストランじゃないけどな」
琴子は首を振る。こんな素敵で嬉しいサプライズはなかなかないと、彼に微笑む。
それに『琴子さんにどうしても見せたくて連絡した。仕事中でダメだったけど、どうしても連れて行きたくて待っていた』なんて……嬉しくないはずない。
彼と向き合って席に座る。月夜の演出なのか、店の灯りは最小限。二人のテーブルは青白い月明かりに照らされていた。
「うーん。でもおすすめの一品が『焼きうどん』というのは、お洒落なOLの琴子さんには言いにくかったりする」
向かいの席で彼が困ったように唸ってしまう。
「ううん。美味しそう。オススメならそれ食べたい。お腹すっごい空いている」
それならと、彼がマスターを呼んだ。
「焼きうどん二つ、それから今日のピザなに」
「ホウタレイワシ(カタクチイワシ)のピザ。一夜塩漬けにしただけのアンチョビ風」
「それももらうわ」
「かしこまりました。あ、また車見て欲しいから、近いうちに連絡するよ」
やはり知り合いだったよう。ジュニア社長と同じ顧客という様子だった。
「うん、わかった。店に連絡してくれよ」
「はいはい。それでは失礼しますね」
だけれど、マスターは最後にニンマリとした意味深な笑みを彼に向けて去っていった。どうやら『女連れで来た』という密かなる笑みのよう。その途端に彼が照れてぶすっとした顔になる。