ワイルドで行こう
事務所に帰ると、ジュニア社長が応接ソファーでデザイナーと向き合っていた。帰ってきた琴子と目が合うなり、いつも堂々としているジュニア社長が気まずそうに目を逸らす。そして琴子もドキリと固まる。
若社長と向き合っているのは、ついこの間、琴子と別れた彼だった。
いまどきの緩いパーマをかけた茶色い髪、カジュアルでもきちんとしているトラッド系スタイル。白いVネックセーターに赤いチェックシャツ、そして黒いネクタイ。そんな見慣れた男の後ろ姿があった。
彼が振り返り、帰ってきた琴子と目が合う。こちらの男もすぐに琴子から目を逸らした。
「お世話になりました」
「こちらこそ。またご縁があれば依頼するかもしれませんが、新しい契約先での活躍を祈っていますよ」
「有り難うございます」
挨拶が終わり、席を立った彼は素っ気なく琴子の側をすり抜け、出て行ってしまった。
ドアが閉まった音を聞き届けるなり、ジュニア社長がソファーに身を沈め伸びをした。
「今月いっぱいで契約解除したんだ」
『え!』とだけ驚き、暫し琴子は固まった。
「でも。フリーランスのデザイナーにとって契約をひとつ失うのは大打撃ですよ。それに彼……ここでの仕事が一番多くて」
「しょーがないじゃないか。あっちから『他の会社と契約したので、ここの仕事まで出来ない』て言ってきたんだから」
『ええ!』、今度の琴子は目を丸くした。
ジュニア社長お抱えのデザイナー社員はこの会社では五名ほど。おかげさまで業績は上々なのだが、その為に数人程度では間に合わない時がある。なのでそのような時は、フリーランスのデザイナーに外注することもある。琴子とフリーデザイナーの彼はこの事務室で出会った。つまりはジュニア社長のアシスタントになって、そして社長が彼をこの事務室に連れてきたのが出会い。ジュニア社長とのビジネス面での付き合いも長かったようで彼にとっては『一番太いパイプ』だったはずなのに。その仕事を自ら断っただなんて――。琴子は呆然とした。そんなことで、あの人やっていけるの?
若社長と向き合っているのは、ついこの間、琴子と別れた彼だった。
いまどきの緩いパーマをかけた茶色い髪、カジュアルでもきちんとしているトラッド系スタイル。白いVネックセーターに赤いチェックシャツ、そして黒いネクタイ。そんな見慣れた男の後ろ姿があった。
彼が振り返り、帰ってきた琴子と目が合う。こちらの男もすぐに琴子から目を逸らした。
「お世話になりました」
「こちらこそ。またご縁があれば依頼するかもしれませんが、新しい契約先での活躍を祈っていますよ」
「有り難うございます」
挨拶が終わり、席を立った彼は素っ気なく琴子の側をすり抜け、出て行ってしまった。
ドアが閉まった音を聞き届けるなり、ジュニア社長がソファーに身を沈め伸びをした。
「今月いっぱいで契約解除したんだ」
『え!』とだけ驚き、暫し琴子は固まった。
「でも。フリーランスのデザイナーにとって契約をひとつ失うのは大打撃ですよ。それに彼……ここでの仕事が一番多くて」
「しょーがないじゃないか。あっちから『他の会社と契約したので、ここの仕事まで出来ない』て言ってきたんだから」
『ええ!』、今度の琴子は目を丸くした。
ジュニア社長お抱えのデザイナー社員はこの会社では五名ほど。おかげさまで業績は上々なのだが、その為に数人程度では間に合わない時がある。なのでそのような時は、フリーランスのデザイナーに外注することもある。琴子とフリーデザイナーの彼はこの事務室で出会った。つまりはジュニア社長のアシスタントになって、そして社長が彼をこの事務室に連れてきたのが出会い。ジュニア社長とのビジネス面での付き合いも長かったようで彼にとっては『一番太いパイプ』だったはずなのに。その仕事を自ら断っただなんて――。琴子は呆然とした。そんなことで、あの人やっていけるの?