ワイルドで行こう
「だって。貴方と出会ったあの煙草屋の自販機に何故立っていたか。別れた彼が吸っていた煙草が欲しかったから」
「買って吸うつもりだったのか。吸ったことないのに」
急に嫌な顔をした。何を言いたいか直ぐにわかる。なぜなら、あの行動が如何に幼稚で情けないことだったかと、今の琴子もそう思うから。でも痛い自分を思い出しても怖じけず琴子は彼に話す。
「そうよ。吸ってね、その甘い煙の匂いを嗅いで、ちょっとでも……彼が優しくしてくれた日に浸りたかったの。浸りたかったの。どこにも逃げ場がなかったから。せめて思い出に癒してもらおうと思って」
彼が黙ってしまった。
「彼と三年つき合ったけど、うちがゴタゴタしはじめたら疎遠になってしまったの。たぶん……彼もどうして良いかわからなかったんだと思う。だから責められなかった」
最初はいちいち泣いていた。お父さんが死んじゃうかもとか、お母さんが元気ないとか、お父さんが機嫌悪い――とか。でもやがて彼がそれを疲れた顔で聞いていると気付いてから、琴子も口を閉ざすようになった。彼だけを見てあげられない集中できない日々は、琴子の女の身体を冷え込ませる。それを優しく受け入れてくれたのも最初だけで、徐々に彼は面倒くさそうにして何もかもを避けてくるようになった。
「だいたい察しつくけどな。それで、なに。『甘い匂い』って、もしかして今、俺が吸っている奴、元カレと同じ煙草とか言わないだろうな」
彼の手元に置かれている煙草の箱は『ピース』。煙が甘い香りがする煙草。
「箱の色が違うけど、同じピース。私もあの夜、ピースを買おうとしていたの」
「……なんだよ。それ」
どうしたことか、彼が愕然とした顔になる。
「くっそ」
しかもいきなり、まだ沢山の煙草が残っている箱をギュッと片手で潰したかと思うとテーブルに叩きつけたので、琴子はビクリと固まってしまった。
「買って吸うつもりだったのか。吸ったことないのに」
急に嫌な顔をした。何を言いたいか直ぐにわかる。なぜなら、あの行動が如何に幼稚で情けないことだったかと、今の琴子もそう思うから。でも痛い自分を思い出しても怖じけず琴子は彼に話す。
「そうよ。吸ってね、その甘い煙の匂いを嗅いで、ちょっとでも……彼が優しくしてくれた日に浸りたかったの。浸りたかったの。どこにも逃げ場がなかったから。せめて思い出に癒してもらおうと思って」
彼が黙ってしまった。
「彼と三年つき合ったけど、うちがゴタゴタしはじめたら疎遠になってしまったの。たぶん……彼もどうして良いかわからなかったんだと思う。だから責められなかった」
最初はいちいち泣いていた。お父さんが死んじゃうかもとか、お母さんが元気ないとか、お父さんが機嫌悪い――とか。でもやがて彼がそれを疲れた顔で聞いていると気付いてから、琴子も口を閉ざすようになった。彼だけを見てあげられない集中できない日々は、琴子の女の身体を冷え込ませる。それを優しく受け入れてくれたのも最初だけで、徐々に彼は面倒くさそうにして何もかもを避けてくるようになった。
「だいたい察しつくけどな。それで、なに。『甘い匂い』って、もしかして今、俺が吸っている奴、元カレと同じ煙草とか言わないだろうな」
彼の手元に置かれている煙草の箱は『ピース』。煙が甘い香りがする煙草。
「箱の色が違うけど、同じピース。私もあの夜、ピースを買おうとしていたの」
「……なんだよ。それ」
どうしたことか、彼が愕然とした顔になる。
「くっそ」
しかもいきなり、まだ沢山の煙草が残っている箱をギュッと片手で潰したかと思うとテーブルに叩きつけたので、琴子はビクリと固まってしまった。