ワイルドで行こう

9.お前の匂い、覚えたから。

 遠くから光の道を描いて二人の姿を時々露わにしてしまう灯台。波の音、鮮烈な潮の香。漁村の道筋にある古いモーテル。
 この部屋に来て、英児が窓を開けてその後すぐ。なんの前置きもなく言葉もなく、互いに待ちきれなかったかのように唇を求め合い重ねた。
 
 シャワー浴びたいだろ。
 いらない。
 どうして。俺はいいけど。俺の身体は汗かいてる。平気なのか。
 それでいいの、それで。
 俺もだ。このままの琴子を抱きたい。
 私も、このままの貴方を……。
  
 琴子はきつく目をつむり、口をつぐむ。
 ――私も、このまま貴方を『貪りたい』。と言いそうになって、自分で驚いたから。
 まだほんの少し理性が残っていた。恥じる自分がいた。
 でも私、おかしい――と、琴子は英児と腕を絡め合い唇を奪い合いながら困惑している。男の人を『貪りたい』なんてこんなに思ったことなんてない。どちらかというと『優しく抱かれたい』じゃなかったの? なのにはしたなくも『貪りたい』って。
 だけれど。喉の奥がからからに渇いている気がした。なにかを飲み干したい、吸って『むしゃぶりつきたい』とか。やっぱりおかしい。
「どうした、琴子」
 キスに夢中になっていた英児の唇が離れる。
「……なんでもない」
 力無く呟くと、また琴子を胸の中に硬く抱きしめてくれる。
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