ワイルドで行こう
 彼の息が荒くなる。琴子の背中を撫で、黒髪を狂おしそうに混ぜて、耳元に口づけを繰り返す。それを感じている琴子も彼の背中に抱きついた。
 互いの皮膚と皮膚の間に、むっとした熱気がこもるのが判る。その中に、琴子が放つ甘酸っぱい匂いと、そして英児の野性的な男の匂いが立ち上って混ざり合う。
「あ、英児の匂い……」
 彼の肩先に琴子は吸い付いた。願っていた通りに彼に貪りつく――。
「俺、お前の匂い――覚えたから」
 耳の裏を嗅いでいる英児が、そう囁いた瞬間だった。
「あっぅん」
 ……ぐんと、強く貫かれる。
 でも。そこで彼が止まってしまう。
 そっと目を開けて、抱きついている英児を見上げた。
 だけど……彼が何故止まっているかわかる気がした。琴子も、じんわりと感じている。きっと彼もそれを堪能しているところ。
「溶けていくみたい」
「琴子も、そう思うんだ」
「思う……」
 感覚が同じで、ちょっと二人で驚いて。息が乱れているのに、そっと微笑み合う。
 ひとつになったそこが、本当に熱く溶けあって、一枚の皮膚になってしまうような――。男の熱さは感じても、異物感のような違和感なんてひとつもない。
 不思議だった。こんな溶けあうセックス、記憶にない。
「俺さ……」
 ゆっくり、彼が動く。琴子もそのまま彼に任せた。
「堪え性ないんで、こいつがイイと思ったら……その、突っ走ってしまうんだ……」
 わかっている。ゆっくり愛されながら、琴子は彼の胸に頬を寄せ、密かに笑っていた。
 後先考えない初めてのキスだって、肩先に紅い痕を残したのだって……。ブラウスのボタンを開けたのも。本当に彼の勝手だった。
「でもさ。それって。もう惚れてんの」
 彼の腰の動きが大きくなってくる。
「わ、わからなかった……」
 じゃあ。あの時、もう……彼は……私を……? 紫陽花の側のキス。あの時、彼ももう私を想ってくれていたの?
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