ワイルドで行こう
 いつしか男だけではなく、抱きついているだけの女も男を中に吸い込みながら激しく動いて愛している。
 抱き合って、唇を貪って、でも肌と肌を離さない。くっつけて押しつけ合って愛し合う。
 窓から潮騒。空には昇りきって小さくなった満月。潮が満ちる入り江。人が作った光の道しるべに見つからない限りは、暗がりでどこまでも愛し合う。
 ムードなんてない、それだけの為にあつらえられた古い部屋で。
 生き物って海から来たのよね。
 満月の夜、動物的に欲しくなるってホントみたい。
 なんて原始的なんだろう。
 本来の姿で愛し合うって。なんて熱いんだろう。
 この匂いの男しかいないって……。
 二度とないと思う。
 
 そんな男の匂いに至福を感じて、惚れ込む。
 楚々とした女の品だって捨て去って、愛し合う。ううん、男を貪って愛す。この匂いの彼だけを必死に愛す。
 『女になる』て。そういうことなのではないだろうか。
 琴子はそう思った。今夜、私は初めて『女』になれたんだと――。
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