ワイルドで行こう
 でも。琴子も社長同様、昨夜から少し気にしていた。特に『誰かを一生懸命愛していたのだろう』と感じてしまった女の勘というのだろうか。
 忘れられない女性がいるのか。でも、あんなにきっちりしている彼がそんな後ろめたい愛し方するとは思えない。車好きが高じて結婚できないの方がしっくりする?
 だが。琴子自身もひとつ、はっきり言えることを胸に秘めている。
 もう結婚するとかしないとか。今はそんなことどうでもいい。今はとにかく、彼とどこまでも一緒にいて深く愛し合いたい。それだけでいい。
 だって。もう彼をとっても『愛しているんだもの』。きっと結婚しなくても愛していける。そんな気がするほど。

 

 ―◆・◆・◆・◆・◆―

 

 でも、やっぱり許せない。今まで言い出せるチャンスはいっぱいあったと思う。
 可愛い女の子さんですって? そりゃ、私も広告とかワッペンとか車のステッカーとか、気付くチャンスはいっぱいあったはずなんだけれど。
 一日中、琴子はこれまでの英児の言動を思い出しては腹を立てていた。
 それに昨夜も。『琴子は可愛いな。しっかり者のくせに……』。あれもきっと『しっかり者のくせに、時々抜けている。可愛いね』とからかっていたんだと。……でも。その時の、わざわざ車を路肩に止めてまでしてくれたあの熱いキスを思い出してしまう。彼のどこか嬉しそうで安心したような優しい眼差しとか、その時の慈しんでくれる唇とか。
 あーんダメダメ。もう許しちゃっている。
 身体も頬も熱くなる一方。朝はあんなに眠かったのに。彼の正体を聞いてから、また興奮して目が冴えて、脳がハイになっているのが自分でもわかっていた。
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