ワイルドで行こう
「そっかー。あっはは」
 あっけらかんと笑い飛ばしたりして『いつまで隠すつもりなのか』と、ますます腹が立ってきた琴子。
 車が走り出し、暫くしてから今度は琴子からカマかけてみる。
「英児さんのお勤め先に行く時、どんな服を着ていこうかな。英児さんのところの社長さん、本当に怒らないの」
「大丈夫だって」
 でしょうねえと琴子は上機嫌で運転している彼をしらけた横目で見た。
「社長さんも英児さんぐらいのお兄さんなのよね。英児さんのような人なのかしら」
「かもなー」
「社長さんは、どんな匂いがする男性なのかしら。やっぱり英児さんに似た匂いなのかしら」
「はあ。琴子は俺の匂いだけ嗅いでいれば良いんだよ」
「だって。きっと英児さんと同じ匂いがすると思うの。社長という男の人の匂いも気になる。なんか急に男の人の匂いが気になっちゃって」
 むっとした顔で、黙り込んだ英児。けっこう分かり易いんだなあと、琴子は笑いたいけど素知らぬ顔。
「女の子って、社長が良いんだな」
「そうねー。経済力あって、責任感もあって、魅力的だけど」
 ますます不機嫌な顔で無言になっていく英児の横顔。怒ると怖いことは知っているから、琴子もどこかでやめなくちゃと思うけれど、彼もなかなか強情で『どうしてそこまで黙るのか』を知るまでは引くもんかと意地になる。
< 97 / 698 >

この作品をシェア

pagetop