ワイルドで行こう
 英児から口を開いた。
「経営ってさ、融資してもらって、金回してなんぼなんだよ。借金ない会社なんてないんだからな。それが経営ってもんで……」
「大変ね。英児さんのお店の社長さん。私、別に社長さんの経済力なんて興味ないけど」
 彼がはっと我に返った顔。自分のことをいつの間にか語っていたと気がついたのだろう。琴子はひっそりニンマリ。
 郊外にある家に向かうのだが、英児が遠回りをして走っている。その家に向かう途中の河原沿いの暗い道を走り始めたところで、また彼が路肩に車を止めてしまった。
 そして思い詰めた顔で暫く黙っている。『言おうか、言うまいか』思いあぐねているのか、また落ち着きなくハンドルを撫でている。
「私、やっぱり。社長さんに『可愛くご挨拶』しようと思っているの」
「あれ、冗談だから」
 この前は琴子が知らないのを良いことに、それを楽しんでふざけていたのに。今度は真顔で拒否したりして――。
「だから。社長に可愛い挨拶なんていらねーから」
 もう。自分で仕掛けておいて、琴子が願ったとおりに可愛くするといったらそんな追いつめられた顔して。
 でも。憎めない人ね。と琴子は微笑んでしまう。じゃあ、これで最後の仕返し意地悪。
「私、可愛く言うからね。『私、英児さんに惚れているんです。大事にしますから、任せて頂けませんか』て――」
 唖然とした英児の顔。そしてばつが悪そうに黒髪をかいて、琴子から目を逸らしてしまった。
「やっぱ、三好さんから聞いているじゃねーかよ」
「どうして黙っていたの」
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