会議室のナイショの関係
給湯室でコーヒーを淹れていると


「俺にもコーヒーちょうだい」


背後から男の人の声が。

振り返るとそこには


「し、社長!?あっ、お疲れ様です」


私は慌てて、挨拶をする。


「さぁちゃん。今ここに居るのは俺達二人だけなんだし、“社長”じゃなくていいよ」


そんな事を言いながら、社長はにこにこと笑顔で私に近付いて来る。


「社長。会社でその呼び方は、やめて下さい」


この会話を誰かに聞かれたらどうするのよ!!


心の中で文句を言い、そして、内心ヒヤヒヤしながら社長を見る。

だって、新入社員の私と社長が仲良さ気に話をしている所を見られたら、色々と大変だ。


“さぁちゃん”と呼ばれた私。

花本 紗和(はなもと さわ) 22歳。

この春、入社したばかりの新入社員。


「さぁちゃんは冷たくなったなー。昔は“まーくん、まーくん”って、いつも俺達にくっついて来ていたのにさー」


わざと“さぁちゃん”を強調し、大袈裟にため息を吐く、この社長。

神藤 真人(しんどう まさと) 29歳。

私の6歳上のお兄ちゃんの高校の同級生。

小さい頃、私は自分の名前がちゃんと言えなくて、自分の事を“さぁちゃん”と呼んでいて、小学生になってからも家では”私”ではなく”さぁちゃん”と言っていたため、お兄ちゃんの友達は私の事を”さぁちゃん”と呼ぶ。

そして、当時、私は社長の事を“まーくん”と呼んでいて、いつもお兄ちゃん達にくっついていた。


その頃、私はまーくんの事を

“いつも遊んでくれるお兄ちゃん”

そう思っていたのだけど……


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