給湯室の恋の罠
「あっ、終わった?」


この部屋で残業をしているのは私一人。

いきなり声が聞こえてきて、驚く。

だって、企画課のドアの所に居たのは、帰ったはずの福本さんだったから。


「な……んで?」

「何が?」

「福本さん、帰ったんじゃ……」

「あぁ……。本当は香澄ちゃんを食事に誘おうと思っていたけど、香澄ちゃん、“残業する”って言うし。だから、ケーキだけでもって思って買いに行ってた」


私の所まで来た福本さんは、小さな箱を見せる。


「嘘だ……」

「何が?」

「“誘おうと思ってた”って……。だって、私が先輩と残業代わったのって、17時前ですよ?」


福本さんが誘ってくれるつもりだったって事がわかり、嬉しい気持ちになる。

だけど、素直に嬉しさを出す事が出来ない私は、少し拗ねた口調になる。


「あぁ、それは俺も残業になるかもしれなかったから。誘っておいて、残業になったら申し訳ないだろ?だから、仕事が終わってから誘うつもりだったんだよ」


福本さんは、私を宥めるように優しく言う。


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