給湯室の恋の罠
軽くお辞儀をして通り過ぎようとした私に、


「すみませんが、この事は黙っておいてもらえませんか?」


真剣な顔をして、そんな事を言われた。

会議室を出る時にも、社長から同じ事を言われたけど。

私は誰にも言うつもりない。

だって、そんな事をしたら、紗和が嫌な目に合うかもしれない。

だから、言うなんて絶対にない。


「はい。言うつもりなんてありませんから」


私はそう言って、軽くお辞儀をして、その場から立ち去ろうとした。

うちの会社の中で一番人気は社長。

でも、倉木さんも見た目がいいから、女性社員から人気だ。

イケメン好きの私も、そりゃぁ、倉木さんの事はカッコイイと思っていたけど、倉木さんの事をそんなに意識した事はなかった。

だけど、


「なら、よかった」


倉木さんはそう言って笑顔を見せる。


ドキッ――…


その瞬間、私の胸が高鳴る。

初めて見たその笑顔は、すごく優しそうな笑顔だった。

いつもあまり笑わない倉木さん。

あまり接点がないというのもあるけど、倉木さんの笑った顔を今まで一度も見たことがない。

“取っ付きにくそう”

だから、倉木さんの事をそう思っていた。

だけど、倉木さんの初めて見せる笑顔に

私は心を奪われたんだ――…


その事を話すと


「わかった。まーくんに聞いてみるね」


紗和はそう笑顔で言ってくれた。


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