愛を餌に罪は育つ
微妙な空気をどうにかしなければと思っていると梓が口を開いた。



「まさか朝陽さんに会えると思ってなくて驚きました」

『梓さんの事は美咲から聞いてます。入社して初めて出来たお友達だとか』

「私も朝陽さんのお話は伺ってます。伺ってた通り優しそうな方ですね」



私は二人のやり取りを笑って聞いていることしか出来なかった。


少しずつ朝陽に侵食されているような――そんな感覚に襲われる。


私の考えすぎなんだろうか――――。



「あっ、ちょっとすみません」



梓はそう言うと朝陽の肩に手を伸ばした。


朝陽に手に取った髪の毛を見せた。



「肩についてました」

『ありがとう』



手に温もりを感じ、目を向けると朝陽に握られていた。


その手を私は戸惑いながらも握り返した。



「あの、すみませんがお先に失礼しますね」

「うん、気を付けてね」



みんなに見送られながら私は朝陽と二人で駅へと足を進めた。


朝陽の横顔は表情がなく、何かを考えているのか暫く話しかけてくることは無かった。






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