愛を餌に罪は育つ
私たちは椅子に腰掛け、加藤さんは体を起こしてベッドに座った。



「足だけで済んで良かったね。他は大丈夫なんでしょ?」

『まぁな』

「加藤君が酔っ払うなんて珍しいよね。自棄酒?何か嫌な事でもあったの?」



加藤さんは口を閉じ、何か言いたげだが何故か躊躇っているように見えた。


本当に嫌な事があって私たちには言い難い事なのかもしれない。



「私飲み物買ってきますね。何がいいですか?」

『ありがとう、美咲ちゃん。でもいいんだ、気を遣わないで』

「――はい」



私がいるから話しにくいのかと思ったけど、そんな考えは加藤さんにはお見通しのようだ。


腰を上げかけていたが、また椅子に座りなおした。


ついさっきまでは明るい雰囲気だったのに、今では凄く重たい空気が流れていて、さすがの梓も気まずそうだ。



『誰にも言わないって約束できるか?』

「――うん、約束する」

「約束、します」



私たちの言葉に深く頷いて見せた加藤さんは一旦深呼吸をして、こう言った。



『酒は飲んでたけど軽く飲んでただけだ。階段から落ちたのも足を滑らせたんじゃない――誰かに――背中を押されたんだ――――』






< 103 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop