愛を餌に罪は育つ
山田さんが吐いたため息と共に気まずい空気も広がった。


今山田さんにこれ程険しい顔をさせているのは私だ。



『どうして直ぐにこんなもんがあるんを言わんかったんですか』

「すみません――わざわざご連絡する程の事でもないと思ってたんです」

『他にはなかですか?』

「今のところもうないと思います」



私は口ではそう言いながらも本当にもうないだろうかと考えていた。


貫禄のある山田さんが険しい顔をすると、悪いことをして怒られている気分になる。



「パスワードは直ぐに解除出来ると思います」

「本当ですか!?」

「えぇ、少しお預かりしますね」

「はい、宜しくお願いします」



USBメモリを笠原さんに渡した。


良かった。


最悪一生見られないんじゃないかと思っていたからこれで一安心。



『この日記の事、何方かに話したりはしとらんですよね?』

「はい」

『野坂さんは?』

「話してないです」

『ならよかです。犯人が何処におるか分からんですから、何かあればまずは我々に話をして下さい』

「はい、分かりました」



一通り話が済むと、今日はもう遅いから帰るように言われた。


USBメモリのパスワードが解除できたら連絡をもらう約束をして、家に帰る為私はまた土砂降りの中傘をさして外を歩いた。


何か手掛かりが見付かってほしいような、見付かってほしくないような複雑な想いを抱えて――。






< 107 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop