愛を餌に罪は育つ
山田さんは眉間に手を当て険しい顔をしたまま目を瞑った。


何かを考えているのか、話を整理しているのか分からない。



『その男性社員は警察には?』

「警察には連絡してないって言ってました。軽くお酒も入っていたし、勘違いかもしれないからって――」

『その男性社員の名前を教えてくれんですかね』

「同じ会社の第一営業部の加藤 信二さんです」



二人とも同時にメモを取り始めた。


只の事故であってほしい。



『失礼ですが、その加藤さんとのご関係を伺っても宜しいですかね?』

「友達とまではいかないかもしれませんが、よくして頂いてますし、お昼も一緒に食堂でご飯を食べる事もあります。二人で食べた事はないです。それと――好きだと告白をされました」

『その告白の件は野坂さんには?』

「言ってません。朝陽とは今は付き合っている訳じゃないですけど、言わない方がいいと思ったので」



その時の勘を信じて良かったと思う。


もしも朝陽が犯人なら加藤さんは階段から突き落とされる程度では済まなかったはずだ。


いや――階段から突き落とされた時も打ち所が悪ければ死んでいたかもしれない。






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