愛を餌に罪は育つ
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次の日また同じ病室で目覚めた私は、まるで生まれ変わったような気分だった。


寝ぼけている頭をスッキリさせるように冷たい水をバシャバシャと顔に浴びせる。


包み込むようにタオルを顔にあて、顔を上げると鏡に映る自分と目が合った。


まだ見慣れない顔――。


昨日は鏡に映った自分の顔を見て、振り返って後ろを確認してしまった。


鏡に触れそのまま自分の顔の輪郭をなぞるように指を滑らせた。



「私の顔――」



私は自分の顔すら忘れてしまった。


だけど今私が見ている鏡に映るのは私以外の何者でもない。


ベッドに戻り窓越しに外を見上げると大きな雲が気持ちよさそうに流れていた。


こんな状況だからだろうか――その何気ない風景ですらとても新鮮なものに感じられる。


私はどうして記憶を失ってしまったんだろう。


自分がどんな性格だったのか、何が好きで何が嫌いだったのか――いろんな事が気になっているけれど、何故記憶を失ってしまったのかという事が今は一番気になっているかもしれない。


記憶を失った事が良かったのか悪かったのかなんて分からない。


目を覚ましても家族は誰一人として急いで駆けつけては来ない。


いるのかいないのかも分からないが、もし孤児ではなく家族がいるんだったらきっと家族から愛されていないんだろう。


もしそうなら私は苦しんでいたのかもしれない。





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