愛を餌に罪は育つ
リビングのドアからは硝子越しに明かりが漏れていて、近付くと中から音も聞こえてきた。


テレビを見ている様だ。


今日何度目かの深呼吸をしてドアノブに手を掛けた。



「あ、れ――?」



ここに辿り着くまでに凄く緊張して、今だって煩い心臓を必死に静めたというのに朝陽の姿はなく、変な安堵感に襲われた。


テレビを消そうとソファー前のテーブルに置かれているリモコンを取ろうとした時、今度は驚きで思わず声を出してしまいそうになった。


そこにはソファーの上で気持ち良さそうに眠っている朝陽がいた。


ソファーで寝てたから姿が見えなかったんだ。


なんてあどけない寝顔なんだろう。


私はカーペットの上に座り、眠っている朝陽の顔を眺めた。



「起きてる時も可愛いけど寝てる時の方がかわいいかも」



朝陽の顔を見て、どうして私は少しでも彼を疑ってしまったんだろうと後悔した。


そう思うのに胸の気持ち悪さは拭いきれなくて、泣きそうになった。


私はいったいどうすればいいの――。


朝陽といると楽だし楽しい。


だけど、だからってそんな感情だけで一緒にいていいはずがない。


私は一人になる事が寂しくて不安で怖いだけ。


傍にいてくれるなら誰でもいいのかもしれない。






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