愛を餌に罪は育つ
堪えていた涙はとうとう零れ落ちてしまい、私は咄嗟に俯き顔を隠した。


朝陽は寝てるから誰にも見られる心配はないのに。


涙を拭おうと手を顔に近付けたがその手は顔に触れる前に止まってしまった。



『――泣いてるの?』



朝陽の繊細な手が私の腕を掴まえている。


泣いている私と目が合うと、朝陽まで泣きそうな顔になった。


朝陽は体を起こしソファーに座ると私の手を優しく握った。



『おいで』



朝陽の胸の中にこのまま飛び込んでしまえばどれだけ楽だろう。


だけど私の体はどうしてだか動かなかった。


そんな私を見兼ねた朝陽が握った手を引っ張り私はそのまま腕の中に閉じ込められてしまった。


私はなんてズルい人間なんだろう。


本当はたくさん温もりを欲しいと思ってるのに誰かが手を差し伸べてくれるまで待ってる――そうなる様に自分から仕向けている。


朝陽はギュッと抱きしめたまま優しく頭を撫でてくれる。


今のこの状況でも私の全てを朝陽に預けられず、ギリギリのところで気が緩められないのは何故なんだろう。






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