愛を餌に罪は育つ
「どんな理由だろうと、もうこういう頼みは引き受けないからね。私用でこんな事をした事がバレたら、私きっとクビね」



そう言った紅は封筒の上にのせていた手をそっと退け、カップを持つとコーヒーを一口飲んだ。


梓は紅の様子を伺いながら封筒を手に取った。


そして暫く封筒を眺めたまま微動だにしなかった。



「緊張する」

「どうして?その父親かもしれない男性とは何の関わりもないんでしょう?」



梓は微妙な笑みを見せ封筒の中へと手を入れた。


中に入っている用紙に目を通した梓は落胆したような、だけどどこかホッとしたような表情を見せた。


今回梓は一般の機関ではなく、紅を通して警察の科学捜査研究所の専門医にDNA鑑定をお願いしていた。


今見ている用紙はその鑑定書だ。


そこには提出した二本の髪の毛はDNAが一致しないことが記されていた。


念のため歯ブラシも提出したが、歯ブラシと二本の内一本の髪の毛も一致しない。



「疑ってた人――父親じゃなかったみたい――――」

「残念だったねって、言うべきなのかな――?ごめん、正直何て言えばいいのか分からない」

「振り出しに戻るけどこれで良かったのかもしれない。もしもこの人が父親だったら、友達を傷つけることになってたかもしれないから」



梓は鑑定書を封筒の中に戻し、封筒を鞄の中へとしまった。


梓は椅子に深く腰掛け体の力を抜くと、天井を仰いだ。






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