愛を餌に罪は育つ
「どうして――どうして、あの時信じてあげなかったんだろう」

「梓――」

「涼子は大学の時に上京してそのままこっちで就職して友達もたくさんいたと思う。だけどッッそんな涼子があの日離れて暮らしてる私に連絡してきたのは、誰にも相談出来なかったんだと思うッッ」



梓は零れた涙を指先で拭い、鼻を啜った。


そんな二人の様子をチラチラ見ている人もいるが、大半の人は梓が泣いている事に気付く事なく自分たちのお喋りに夢中になっている。


梓は誰に見られようと気にしていないようだが、紅は自分たちに向けられている目を一掃するかの様に周りを見渡した。



「梓のせいじゃないよ」

「そんなはずない。わざわざ電話してきて妊娠してるかもしれないって言ったの。今までは涼子が彼氏に電話でそう言ってるのを聞いてただけ。直接言われた事なんてなかった――本当か嘘かも分からないなんてッッ姉として、失格だよね」



涙を拭った筈の梓の目にはまた涙がたまっていた。


今にも零れ落ちてしまいそうな程。


目は少し充血し、鼻の頭も少し赤みを帯びている。






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